第50話

 ユイトは、目の前にいる人物を、信じられない面持ちで見つめた。

「やっと会えた……」

目の前にいるその相手、奏一がホッとしたように言った。

「な、なんであんたがここに……」

ここの場所は教えていなかったはずだった。

「店名は聞いたことがあったから。ネットで検索したんだ」

なるほど、とユイトは納得した。今はすぐに探し出すことができるのだ。携帯などはシャットアウトできたとしても、この店にいる限りは知られてしまう可能性はある。仕方がないこととは言っても、まさか店にまでやってくるとは思わなかった。

「突然来て、ごめん。今話せるかな」

 奏一はしっかりとユイトの視線を捉えた。

「もうすぐ上がりだし、ちょっと待っててくれるか……」

他にも従業員がいるし、変に思われるのも嫌だったが、取り敢えず店内のソファーに奏一を座らせて、上司に上がってもいいか聞きにいった。

しばらくして、ユイトは奏一の元に戻った。

「もう上がっていいって言うから、取り敢えず、店出ようぜ。ここじゃ色々話辛いからな」

そう提案すると、奏一も「あぁ、いいよ」と言ってソファーから立ち上がった。

店を出て、深夜の道を歩く。どちらともなく、少しだけ距離を空けているのが何だか心の距離までを表しているようだし、空虚な気分にもなる。

 二人は、店から歩いて行けるくらいの距離にある、ユイトの部屋にやってきた。

部屋に入り、取り敢えず奏一をソファーに座らせた。

「こんな時間に来てごめん。閉店後辺りなら、ゆっくり話せるかなって思ったから……」

 うつむき加減に奏一が言う。

「まぁ、まさか来ると思ってなかったからびっくりはしたけど……なんか飲む?」

「いや……いいよ。それより、君もこっち来て座ってくれないかな」

 奏一が、努めて静かに話していることがユイトにも伝わった。

 緊張しながら、ソファーの奏一の隣に座る。本当は、今でも奏一の事は忘れられてはいなかったし、隣にいるのだからくっつきたいというのがある。しかし、気まずさから間を空けて座った。


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