第47話

何も考えたくなかった。一心に歩を動かし、ユイトは自宅に帰ってきた。静かな部屋に辿り着くと、異様に頭が冷静になってくる。

奏一の部屋で見た白い台紙は、あれはきっとお見合い写真。兄弟か何かのだろうか。いや、そんなはずはない。あの部屋は奏一しか住んでいないし、家族のものがあるということはないだろう。

と言うことは、奏一のためのとしか考えられない。あらかた、家族が勧めたものだろうということはわかる。きっと、自身が男しか愛せないことも、ましてユイトとのことなども話していないのだろうと察せられる。

けれど……奏一は写真に写っているであろう相手と、会うつもりなのだろうか……。

考えるだけで、ユイトの胸はモヤモヤとして仕方がなかった。ただ、奏一と一緒にいたい。それだけなのだが、果たしてそれは良いことなのかと思ってしまう。

 

確かに、いつかは親に結婚はどうするのだとせっつかれるに決まっている。それは、ユイトも同じ。それでも、ユイトはそのうちきちんと全て家族には話そうとは思っていた。母などは卒倒してしまうかもしれないが、離れて暮らしていても、こういうことは内緒にはしておけないと思うから。

 奏一の場合は、役所に勤めている公務員ということもあり、どこかのお嬢さんと結婚するものだと、奏一の親も思っているかもしれない。

安定した職に就いている息子が、ホスト稼業をしている自分と付き合っていると知れば、卒倒どころの話ではないかもしれないだろう。

職業に優劣はないとは思いたいが、ユイトとしても多少はコンプレックスを抱いてしまう。最近では、奏一という相手を得たせいか気分も変わってきて、仕事もより楽しめるようになってきていたのだ。そういったこともあり、段々と店の内部でも認められてきている。店で頑張っていられるのも、奏一がいてくれるおかげかとも思うが、公務員にホストがくっついていれば世間体にも関わるかもしれない。それでも、奏一自身はそんなこと気にはしていない可能性もある。

 しかし……・“好き”なだけでずっと一緒にいられるとは限らないのだ。想いが通じて、そのことに浮かれていたので考えもしなかったが、奏一には普通の家庭を築く方が合っていて、良い人生を送れるのではないかと思った。段々と、心の中の熱が冷めていく気がした。決して、奏一に対する想いが冷めてきたというわけではない。

 ユイトは、自分などと一緒にいるよりも家庭を持つ方が幸せなのではないかと思うのだ。確かに、奏一はゲイだということで女性を愛することはできないかもしれない。けれど、世の中には孤独を回避するためなど、割り切って異性と結婚をするパターンもあるらしいと、どこかで聞いたような気もする。

奏一も、そのパターンだとしたら……。いや、ユイトになんの相談もなくそんな話を進めるわけもない。

 第一、付き合いだしてからさほど期間も経っていないと言うのに、ユイトを可愛いと言ってくれていたのに……お見合いをするというのだろうか。

 早く、奏一に確かめたい。会って、どういうことなのか聞きたい。けれど、二人は恋人同士だとしても、奏一の今後を考えたら自分は周囲をうろつかない方が良いのだろうかとも思えた。


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