第46話

 夏の暑さも収まってきたある金曜日、ユイトは家主が留守にしている奏一の部屋を訪れた。付き合いだしてから、合い鍵をお互いに交換し、いつでも来られるようにしていたのだ。とは言え、来る時には連絡を入れるようにすることがルールとなっていた。

 連絡をしておけば、本人が部屋にいなくても上がり込み、家主の帰りを待つことなどもできるということだ。それに、何かと鍵を持っていた方が信頼性にも繋がると思ったから、交換をしたのだった。

ユイトは仕事が店休日なので、珍しく料理を振る舞おうと思い、奏一に連絡にサプライズをしようと思い立った。最近ではユイトも自炊に取り組むようにしているのだ。このところ奏一の仕事が忙しく、残業続きで休日も出勤になることがある。会える回数も減ってきたので、何とか時間を作ろうと考えた策だ。

ユイトの気分は高揚していた。ルールを破り連絡なしで上がってしまったのは気が引けるものの、奏一のために何かをしてあげたいと思うだけで嬉しい。それは独りよがりかもしれないけれど……。

奏一の部屋に入りいつもと変わらずリビングに行くと、テーブルの上に長方形の薄いファイルの様なものが置いてあった。白を基調としたシンプルなもので、表紙は金色で縁取りがされている。さも、お見合い写真であるとわかる。まだお見合い話をされたこともないユイトでも、お見合い写真だと開かずともわかった。

 ユイトは携えていた荷物をドサリと床に落とした。もしこれを開いてしまえば、ますます気分が悪くなってしまいそうだった。

 そして、購入してきた荷物をそのままにして部屋を飛び出した。

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