第31話
浩一郎の手帳には、ユイトに別れを告げたことを後悔していること、ユイトのことを心配しているとも書かれていた。
しかし、その後奏一と再会し恋に落ちてしまったという。昔から仲が良かったこともあり、自然な流れで付き合うようになったのだ。それでも、最初の頃はユイトのことが気にもなっていたのだ。
だが、ほどなくして浩一郎の記述は途切れてしまっていた。ユイトは力なく手帳をテーブルに置き、俯いた。
「アイツ……こんなこと書き残して……」
目には涙があふれてきた。でも、ぐっと堪えた。もう別れてしまっているのだし、第一もう浩一郎はいないのだから……。
「おせーよ……もう……」
「その手帳……読ませてもらったけど……その相手、君だったんだね」
奏一の声音は、とても静かで落ち着いていた。
「あぁ……まさか……アイツが、浩一郎が亡くなってたなんて……それに、あんたと付き合うようになってたなんてな……よりによって、あんたと……」
ユイトはより項垂れ、テーブルの上で両手を組みギリリと力を込めた。
「よりによってって、どういうこと?」
「俺は、あんたが好きだ」
「え?」
奏一は目を丸くしてきょとんとしている。
「浩一郎と別れた後は、すげぇムカツいたし、また人を好きになっても、きっといつか別れはくる。裏切られることもあるかもしれない。そう思ってた」
顔を上げ、奏一の顔を見据えるユイトの目を、奏一もしっかりと見返していた。
「でも、あんたといると楽しいし、会ってない時でもあんたのことを思い出してた。それに、次に会える日を、いつも楽しみにしてた。こんなこと、他の誰にも思わねぇ」
「君が、俺を?」
奏一は信じられないというような顔をした。
「今はあんたしか、見てねぇからな……こんな仕事してっけど……俺は本気だ……信じては……くれないか」
そう言うと、ユイトは立ち上がり、奏一の後ろに回った。そして、奏一を抱きしめた。
奏一の体が、ぴくりとわずかに動く。
「凄く……あんたが好きだ……あんたがまだ、浩一郎を忘れてなくても……それでも、俺はどうしようもなく好きだ……」
ユイトは初めて奏一を抱きしめた腕に、力を込めた。密着しているので、奏一の香りがするが、こういう香りがしたのだと改めて感じた。ユイトにとって、とても落ち着く香りだ……。
「ユイト君…」
ためらいがちに、奏一の手がユイトの腕に添えられた。
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