第8話

「そうだよ。まぁ、大変さは部署にもよるんだろうけど……俺がいるのは、福祉関係で、色々と忙しいし、残業はざらだしね、休日出勤だって普通にあるよ。あんまりこういう愚痴を言うのもあまり良くはないんだけど……」

 そう言って少し肩を竦めると、奏一は酒に口を付けた。

「へぇ……でも、残業したらそれだけ手当でるんだろ?」

「まぁ、出るは出るけど、公務員ってのも楽じゃないって今痛感してるところなんだ。部署変わったばかりでね」

「でも、安定してんなら良いじゃん……」

 ユイトは片ひじをついてグラスを持ち、カランと中の氷の音を鳴らした。

 今のユイトの仕事は、売れれば上にのし上がっていくことができる。しかし、芽が出ずに鳴かず飛ばずのままで退いていく者も多い。ユイトもそんな不安定な中に身を置いてしまっているし、ユイト自身も売れっ子と言えるほどではない。

いつまで続けていられるかわからないし、辞めたとしたら、その先どうするかも全く見えない。

『何で俺、こんなとこにいるんだろ……』

 ふと、ユイトはそんなことを考えた。

「あぁ……まぁ、真面目にやってたら定年まで勤められるし、その点で心配はないけどね」

「大事なことだろ、それ。突然クビになる心配ないなら、それに越したことない。誰だって、それがいいに決まってる」

「うん、そうだね。俺も、気合い入れて頑張らないとな」

「あぁ。そうしろよ」

 ユイトは、公務員は時間が来たら定時で仕事を終えて帰り、土日は決まって休めるものだと思っていた。しかし、そういうわけでもないということを知って、違う世界があることを改めて感じた。

そして、少しずつ奏一に興味を抱いた。


色々と話をしていると、不意に奏一がコソコソと聞いてきた。

「あの……さ……」

「なんだよ……」

「これからホテル行かない……かな」

 それを聞いて、ユイトは飲んでいた酒を思わず噴き出しそうになった。

 地味で生真面目そうに見えるのに、突然何を言いだすのだと思った。

そして、まじまじと奏一を見つめる。

「はぁ?何言ってんの、アンタ」

「だ、だってここに来たってことは……相手探してたんじゃないの?」

「……相手……?それはどういう意味だよ」

「ここ、ゲイバーだから君もそうなのかと思って……違うの?」

「え、ゲ、ゲイバー?」

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