第9話

ユイトは驚愕した。いや、店に入った時から変な気がしたのだ。客はやたらと男の数が多いし、まさかと思っていた。

「あー……もしかして、知らないで入ってきた?」

「……まぁ……初めてだったから……」

 知らなかったことが恥ずかしかったが、素直に白状した。

「そうか。まぁ、知らなかったなら仕方ないよね。変な事聞くけど、君は……その……女性が好き、なの?」

 初対面で聞かれるには不躾かとも思ったが、奏一ならあまり嫌な気はしなかった。

「いや……男……」

 ユイトが教えると、奏一は意外そうに見つめてきた。

「え?そ、そうなの?……じゃ、行かない?ホテル」

 奏一が顔を近づけてきて囁いた。

「……悪いけど、無理だから」

 ユイトはきっぱりと断った。

 元彼と別れてから、できなくなってしまったからだ。

「え、何で?」

「俺、できねぇんだよ。男も女も。わけあってな」

「わけ?……そっか。わかった。じゃあ、無理にとは言わない」

「悪いな。やりたければ他あたってくれ」

 この男とはこれっきりだろうと思い、奏一のことを見ずに言った。

「いや、俺は……確かにゲイバーで飲んでたけど、別に単にやりたかっただけじゃない」

 奏一は真面目な顔をして言った。

「ふーん。そうか」

「君はさっき、ホストだって言ってたけど、何でゲイがホスト?」

「……色々とわけあってな。金が必要だったんだよ」

「……なるほどね。でも、女の子と飲んでもてなすの平気なの?」

「あぁ。別に平気。”ホスト”を演じてるから……まぁ、接客中なんて、皆そうじゃねぇの?」

「演じてる……か……気苦労も多そうだね。気を使うだろ?」

 何だか踏みこんできそうな気配がしたので、適当にあしらう。

「まぁ……でも、俺も慣れてきたからな。色々とホストも大変な面があるけど……」

「ヘぇ、そうなんだね」

 そう言うと、奏一はしげしげとユイトを見つめてきた。

「ねぇ、君とまた飲みたいんだけど、連絡先教えてくれないかな」

しばらくして、奏一が思いがけないことを切りだした。

「何で初対面に?他にもいるだろ……」

「君と飲みたいんだよ。君のことをもっと知りたい」

 何だかますます面倒なことになってきたと、ユイトは心の中で溜め息を吐いた。

「何で俺なんだよ……」

「頼むよ、な?」

「な?って……」

 正直、辟易してきた。しかし、このまま押し問答を続けていくのも時間の無駄だし、奏一は引き下がってくれそうもなかった。

そこで、ユイトは半ば渋々携帯の番号などを奏一に教えて、二人は帰った。

ちょうど、午前十二時を回ったところで、ユイトの誕生日が終わった頃だった。

 このバースデーの出会いが、運命だなどとはこれっぽっちも思っていないが、波乱を巻き起こすのではないかと思えた。

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