第7話

ホスト業を始めてから、少しは服装もおしゃれにするようになったが、仕事以外ではあまり目立つようなファッションはしないのだ。もちろんヘアメイクもしていないから、ごく自然にしていたから、あまりわからなくても当然だろう。

 ただ、奏一はユイトがホストだと聞いて納得がいかないような、変な顔をしたが、すぐに表情を変えた。

「俺は二十五歳だけど、ユイト君は何歳なの?」

「二十一になった……今日で……」

「え、今日?今日誕生日なの?」

 奏一は酒のグラスを片手に”誕生日”という点に食いついてきた。少しだけ、身体もユイトの方に乗りだしている。

「あぁ、まぁ」

  あまり気のない返事をして、奏一はつまらないと飽きるかと思われたが、全くその様子は見られなかった。

「じゃあ、今日は特別な日なんだね。でも、今日は休み?お祝いとかないの?」

「そうでもねぇ……店は今日休みだし、イベントは、まぁ、別な時にやる」

「あ、そうなんだ。じゃあさ、もし俺でよければお祝いさせてよ。まだ、出会いの乾杯もしてなかったし。ホラ」

 そう言うと、奏一はグラスをユイトの前に掲げてきた。乾杯しようと言いたいのだろう。渋々ではあるが、ユイトも無言でジントニックの細長いグラスを持ちあげた。

すると、奏一は待っていたと言う様に、ユイトのグラスと合わせた。カチンという高い音が耳に響く。

 初対面の男と、こうしてニ人で飲んでいることは、自分で不思議に思える。ユイトにしたら、普通なら有り得ないことだ。

「初対面に乾杯。そして誕生日おめでとう」

 奏一はそう言ってグラスの酒を煽っている。それをユイトは見つめた。変な男だ。自分なんかのことを聞いてどうするのだろうか。

 無理やり自分の中に入ってこようとされているようではあるから、ユイトにしてみれば信用ならないのだ。しかし、奏一はペースに巻き込んでくるようだ。

「ども……」

 ユイトは照れ臭かった。 

こうやってプライベートで誕生日を祝われたのは、こちらにやってきてから始めてだった。最後は……元彼と一緒に過ごした時だ。そう思い出したら、ふと、元彼の顔が脳裏に浮かんできたので、ユイトは慌てて頭から追い払った。

「公務員って……何してんの?まぁ、言いたくなきゃ言わなくてもいいけど」

 これまでは聞かれる一方だったが、初めてユイトから聞いてみた。

「区役所に勤めてるんだよ」

「へぇ……堅い職業に就いてんだな」

 別に、皮肉って言ったわけではない。素直な気持ちを述べただけ。

 とは言え、そういったとたんに住む世界が違うのだと改めて感じられた。あまり世間的に印象の良くないホストと違い、役所勤めをしているなら、世間体も良いに決まっていた。生真面目そうに見える奏一は、公務員にぴったりだと思える。

「堅いかな。まぁ、安定した職だとは見られるみたいだけど……これでも色々と大変なんだよ」

「ふーん……そうなのか」

 ユイトが気のなさそうな返事をしても、気にする風でもなく、奏一は話を続けた。

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