私の代わりに

ゆでたま男

第1話

大学の授業をを終えると、急いで電車に乗った。7時でバイトを終えると、ようやく自分の時間が取り戻せる。

「あーあ、疲れた」

ワンルームの部屋に帰ってくると、

一息ついた。なんか、理想と違うな。

毎日時間に終われて。なんか自由はないし、

遊ぶ時間はないし。

これが大学生活というものなのかね。

恵梨奈は、唇を尖らせた。

適当にネットで動画を観ることだ。

そこである広告に手が止まる。

それは、人工知能モニターというものだった。自分の時間を増やして快適な生活を手入れれませんか?と、書かれていた。


「弊社は、ロボットを使い、生活向上を目指しています。今回は、人工知能がどのくらい正常に機能するか、テストしていただきたいのです」

黒いスーツの男が言った。

「テスト?」

恵梨奈は、首を傾げる。

「テストと言っても、難しいことはありません。ただ、ご自身の代わりに身の回りのことをやらせて頂ければいいのです。もちろん、協力して頂ければ、報酬はおしはらいします」

恵梨奈は、興味を持ち、その場で契約した。

全身をスキャンして、数時間後、それは完成した。

「本当に私ソックリ」

「もちろんです。後は、意識を移せば終了です。」

ヘッドフォンの様なものを渡された。

恵梨奈とロボットを繋ぎ、数分待った。

「正確なデータをとりたいので、このロボットのことは、浸しい人でも出来るだけ秘密にしていて下さい。毎日起こったことを伝え合って情報を共有するといいと思います」

「分かりました」

「それでは、起動します」

ロボットは、目を開けた。

「初めまして」

と、にこやかに笑いかけてくる。

恵梨奈も微笑みを返す。

「よろしく、もう一人の恵梨奈ちゃん」

こうして、二人の生活は始まった。


目か覚めると、午前10時だった。

恵梨奈は、ベッドから起きて伸びをする。

なんて幸せな毎日なんだろう。

授業もバイトも、みんな彼女がやってくれる

好きなときに好きなことをする。そんな夢の様な生活が実現したのだ。

そうだ、明日は秀平君とデートだった。

新しい服を買いに行こう。


「お待たせ」

恵梨奈が待ち合わせ場所に行くと、秀平がすでにいた。

「僕もちょうど今きたとこだよ。行こうか」

「うん」

恵梨奈は、秀平の腕をとった。

秀平とは、付き合い始めてまだ2ヶ月。

始めは友逹の友達というだけだったが、

次第に意識すようになり、秀平から告白された。一緒にいられる時間が何より楽しかった。

彼女が恵梨奈の代わりをするようになって、

数週間が経った。

「あのね、勝手なことをされると困るのよ」

「ごめんなさい」

恵梨奈の知らないうちに、彼女が秀平に会っていたのだ。

「あなたは、私の代わりをしてるだけなのよ」

「分かってます」

「分かっているなら、余計なことしないで」

彼女の行動が少しずつ変化してきていることに恵梨奈は気がついていた。

服や化粧にこだわったり、特定のアイドルの

男の子が出るドラマに夢中になったり、まるで本当の人間のように振る舞うのだ。

何も起きなければいいけど。言い知れぬ不安が恵梨奈の心に広がっていた。


そんなある日。恵梨奈が棚の上で充電されていたスマホを手にとった時、異変に気がついた。

「あれ?間違えてる」

それは、彼女のものだった。おそらく、恵梨奈のスマホは彼女が持っているのだろう。

「まったく、仕方ない子ね」

適当に触っていると、メールが来た。

『今ついた。早くこいよ』

秀平からだ。

「あれ、なにこれ?また勝手に秀平と」

恵梨奈は、急いで待ち合わせの場所に向かったが、姿はない。

まだ、遠くには、行っていないはずだ。

自分が行きそうな所をしらみつぶしに探すと

ようやく二人を発見した。

恵梨奈は走って二人に近づいた。

「ちょっと、何してるのよ」

秀平は、困惑した。

「え、恵梨奈?恵梨奈が二人って、どういうこと」

「秀平君、これは違うの」

秀平の隣の彼女が割って入った。だが、恵梨奈は続ける。

「あなたは、私の身代わりで、勝手なことをされたら困るってこの前も言ったよね」

そう恵梨奈が言うと、彼女は、言い返した。

「そっちこそ、私が本物の恵梨奈よ」

「何言ってんのよ、私のお陰であなたがいるんじゃない」

「ちょっと、二人とも、やめろよ」

「秀平は黙っててよ、関係ないんだから」

恵梨奈が言った。

「何だよ、分かったよ。勝手にしろよ。俺は帰るからな」

「ちょっと、待って」

彼女は呼び止めたが、秀平は歩いて行く。

ちょうど、歩道のすぐ側で大きなビルを建設中だった。クレーンで鉄のパイプを束ねて吊り上げている。突然突風が吹き、両端についているワイヤーの片方が切れた。

「秀平君、危ない」

恵梨奈は、秀平に向かって走る。

もう片方のワイヤーの輪の中からパイプが滑って落下した。

恵梨奈は、秀平を突き飛ばした。

その上に鉄のパイプが落ちてくる。

大きな音がして、辺りは騒然となった。

「恵梨奈!」

秀平は、立ち上がって恵梨奈に近づいた。

だが、不思議なことに、出血は無く、

よく見ると体の一部、金属のようなものが見えている。

「これは、いったい」

「ごめんなさい。実はそれ、私のロボットなの」

そばに来た恵梨奈は、そう言った。

「ロボット?」


まもなく、警察が来て事故の聴取が終わった頃には、日が傾いていた。

「なんか、ごめんね。せっかくのデートだったのに」

「でも、まさかロボットとはね。今の技術は、すごいよな。本当にソックリだったし。実は今の恵梨奈もロボットだったりして」

秀平は、恵梨奈のほっぺをつまんだ。

「痛いっ。ちょっとやめてよ、も~」

「本物だ」

秀平は、笑った。

そして、向かい合ったまま少し沈黙した。

秀平の両手が恵梨奈の両手肩を掴む。

目を閉じた恵梨奈に、ゆっくりキスをした。

唇が離れると、恵梨奈は、照れくさそうに下を向いた。

「なんか、ごめん」

秀平が言うと、恵梨奈は、首を振った。

二人とも笑顔がこぼれる。

恵梨奈を送った後、秀平は、家に帰る道を歩いていた。

すると、目の前に突然車がとまり、

黒いスーツの男が数人降りてきた。

秀平は、両腕を捕まれ、後ろで拘束される。

「やめろ、何すんだ」

そのまま車に押し込まれた。


「シャットダウン完了です」

白衣姿の研究員が、机の上に横たわっているそれを見て言った。

「どうなんですか?こいつ」

秀平は、黒いスーツの男に聞いた。

「やはり、こいつもダメですね。自分をほんものの人間だと思い込んだみたいです。

私達が開発したロボットは、12体ですが、半数にこのような不具合が起きています。しかし、その原因はまだ分かりません。一種のバグみたいなモノかもしれませんが」

秀平は、自分と瓜二つのロボットの顔を見た。

「これだけ精巧に出来ていると、僕にしか見えない。なんか、もしかして自分もロボットなんじゃないかと、疑いたくなりますね」

「まさか」

二人は笑った。


その二人をモニターで監視している者達がいた。目が大きく、顎がとがり、手足は細く長く、そして白い。

「われわれの研究の成果だ。地球の生物がここまで知性を持つようになるとは思いもよらなかった」

「そうだな、初めは最低限の本能を植え付けただけだが、進化と自己学習によるものだ」

「これからも遠くから見守っていよう」

その宇宙船は、宇宙の彼方へ飛び去っていった。

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私の代わりに ゆでたま男 @real_thing1123

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