第4話 初めまして?~4~

「松永さん? 松永さんの番だよ?」


貴島君がこちらを覗き込む。

ハッとすると、いつの間にか自己紹介の順番が回って来ていた。

慌てて立ち上がり、挨拶をする。


「あっ、はい! えっと1-Gの松永楓です。よ、よろしく……です……」


緊張で少し声が上ずってしまい、挨気まずくなりながらおずおずと席に着く。最後の方は声が小さくなってしまった。

それには理由がある。

だって!

だって、変わらずジッと春岡君に見られているんだもの。

春岡君は私の自己紹介中も、変わらずじっと見てきた。

気のせいなんかではなく、自意識過剰なんかでもなく、彼はじっと射抜くように私を見ていたのである。

あそこまで見られるとドキドキなんてしない。

なんか逆に逃げ出したくなる気分だ。

なんであんなに見てくるのだろう。

何か悪いことでもした?  

でも初対面のはず……。

あ、もしかして顔になにか付いてるとか!?

そうだったらめちゃくちゃ恥ずかしい!

慌てて顔に手を当てた。

きっとそうだ。顔に何かついていたら、そりゃぁじっと見てしまうよね。

自問自答をし、納得する。

そして、そっと顔を上げると春岡君は黒板に目を移し、もうこっちを見てはいなかった。


第一回目の委員会は無事に終わり、私は貰った年間予定資料をペラペラとめくる。

はぁ~、なんだか変に疲れた……。

委員長ってのも大変だなぁ……。

これから行事を仕切っていかなくてはいけない立場にあるなんて、私の描いたまったりゆったり高校生活とはかけ離れていくようで、うんざりとしたため息が出る。


「松永さん、会議終わったし、帰ろう?」

「あ、うん。今行く」


私は貴島君に続いて集会室を出た。

廊下の窓から外を見ると、もう少しで日が落ちそうだった。

今日は初回ということもあって、自己紹介が主だったが、なんだかんだで時間がかかったようだ。

すると、隣を歩く貴島君が口を開いた。


「ねぇ、自己紹介の時に春岡さ、松永さんのこと見てたよね?」

「へ!?」


ドキッとする。

やはり隣にいただけあって、貴島君も春岡君の視線に気が付いたようだった。


「あ、えっと……そうかなぁ~?」


しかし、私はなんとも曖昧な返事をしてしまった。

だって、そう感じただけで実は違ったかもしれないし。

あんなイケメンが私を見ているはずもないし。

何かついていただけかもしれない。

変に肯定して自惚れるのも恥ずかしい。

あんなイケメンに見つめられた、だなんて自意識過剰も甚だしいよね。


「ん~、気のせいだよ。あ、それか私の顔に何かついていたとか」

「そう?」


うんうんと頷く。

そうだ、気のせい、気のせい。

そう思おう。ひとりで何度もうんうんと頷いていると、隣の貴島君がホッとしたように苦笑した。


「そっか。変に気にし過ぎちゃった」

「え?」


何を? と聞き返そうとした時、廊下の後ろから呼び止められた。


「松永さん」


突然呼び止められ、驚いて振り返る。

そこには思いがけない人がそこに立っており、驚いてしまった。


「え? あ……」


声の方を見ると、そこには噂の彼がいたのだ。


「あ……えっと、春岡君?」


そこには春岡 龍輝が立っていた。

私と目が合うと、ニッコリと微笑んでゆっくりと近づいてくる。


「良かった、間に合って。これ、忘れ物」


その手には私のペンケースが握られていた。

どうやらさっきの集会室に置き忘れていたようだ。


「ありがとう」


わざわざ持ってきてくれたようで、慌ててお礼を言う。

探して持ってきてくれたのか、いい人だなと思った。


「どういたしまして」


と、春岡君は柔らかい笑顔を見せる。

おお、本当にイケメンだ。

間近で見た笑顔にドキドキしちゃう。

何だか変に照れるなぁ。

春岡君の笑顔に見とれると、春岡君はフッと笑顔を消して私をじっと見つめてきた。

えっと……???

さっきと同じ視線だ。


「あの、何か……?」


耐え切れず、控え目に聞いてみる。

何か付いているのだろうか。でもそうしたら、先に貴島君が教えてくれるだろうけども……。

そう思い、戸惑っていると春岡君は笑顔を作り、首を振った。


「あ、いや。何でもないよ。じゃぁ、また」

「あ、はい」


そのまま踵を返し、春岡君は帰っていく。

その後姿に首をひねった。

何だったんだろう。あそこまでまじまじと見られると、ちょっと不躾ではないかと感じてしまう。

しかし、そこまで嫌な気分ではなかったのは相手がイケメンだからだろうか。


「最後まで俺は無視だったなぁ」


ちょっと面白くなさそうに隣で貴島君が呟いた。

貴島君は私を振り返り、首をかしげた。


「松永さん、春岡の知り合いだった?」

「えっ、ううん。違う……と思う」


知り合い?

いや~、あんなイケメン見たことない。

会ったことあったら忘れないだろう。

私は頭の中で、必死に過去の記憶をさかのぼるが、やはりあんなイケメンは出会った覚えがない。

ということは、初めましてだと思うんだけれど……。


……どこかで会ってた?

春岡 龍輝ーー……………





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る