第三章

       一


 流と水緒が江戸に来て五年の歳月が流れた。


 流は水緒の働いている水茶屋に着くと足を止めた。


「水緒」

 流が声を掛けると水緒が振り向いた。

「あ、流ちゃん、もうすぐお終いだからそこに座って待ってて」

 前掛けをした水緒は茶碗や団子の載っていた皿を持って店の奥へ向かう。


 流は毎日水緒の送り迎えをしていた。

 贄の印がなくなったとは言え供部であることに変わりはない。

 一人で歩かせるのは危険だ。

 それに水緒の送り迎えでこう言うさかを歩くようになって分かったのだが、危ないのは何も妖だけではなかった。

 警戒する必要があるのはむしろ人間の方だ。

 水緒は可愛いから特に危ない、と桐崎も水緒の送り迎えをするように勧めた。


「仕事は大変じゃないか?」

 店を後にすると水緒に訊ねた。

「大丈夫。お店の人も優しい人だし、お客さんもいい人ばかりだよ」

「そうか」

 大変だと言うようなら無理にでもめさせようかと思ったが、今のところ上手くやっているようだ。


 流は腰に大小をしていた。

 最初は歩きづらかったが慣れるとそれほど邪魔にはならない。

 武士は二本差しで歩かねばならないらしい。

 一本しか差していない者がいるから桐崎に聞いてみたら牢人などは一本しか持ち歩かない場合もあるとのことだった。

 流は武家だから二本差して歩くように言われている。

 桐崎は流と水緒を武家として育てたいらしい。

 言葉遣いなども武家らしくするように言われていたが、流はともかく水茶屋で働いている水緒はなかなかそうはいかないようだ。


 武家の人間が水茶屋で働くわけにはいかないので水緒は普段、町娘の格好をしていた。

 水緒が町娘の格好をするなら流も町人の格好をしたかったのだが、町人は帯刀が許されていないのでダメだと言われてしまった。

 最初、流は人間の身分などどうでもいいと思っていたが、街に長く暮らしていると人間の世界では守らないといけないらしいと言うことが分かってきた。

 少なくとも無用な揉め事を起こさないように生活していくためには決まりを守る必要がある。


「流さん」

 水緒の働いている水茶屋の女が声を掛けてきた。

 流と水緒は振り返った。

「これ、流さんのでしょ?」

 女はそう言って巾着を差し出した。

 流は懐に手を入れた。


 ない……。


 流は差し出された巾着を受け取った。


「気を付けて」

 女はそう言うと手を振って向こうへ行ってしまった。


 水緒は帰るとすぐに夕餉の支度を始めた。


 下拵したごしらえなどは、お加代がやっていってくれるので、すぐに出来上がる。

 水緒は初めて水茶屋で賃金をもらったとき桐崎に渡そうとした。


「おじさん、あんまり多くないんだけど……」

「なんだ、これは」

店賃たなちん

「ここは長屋ではないぞ」

 桐崎は笑って言った。

「お前達から金を取る気はない」

「でも、食費とか……」

「いいから、お前の小遣いにしなさい」

 そう言って、その話はそれで打ち切られてしまった。


 流は払暁ふつぎょうと共に起きると道場に雑巾掛けをし、それから朝餉まで素振りをする。

 朝餉が終わり稽古が始まるまでの間も素振りをし、稽古が始まると門弟達に混ざって稽古をする。


 水緒は朝餉を片付け、家事を終えてから水茶屋に行くまでの間、お加代から裁縫さいほうを習っていた。

 最近は着物も仕立したてられるようになった。

 流の着ている物はどれも水緒が古着を仕立て直したものだ。

 水緒が着物を仕立てられるようになって以来、流は他の者が仕立てたものは着なくなった。


 午前の稽古が終わり、門弟達が帰っていくと流は水緒を水茶屋に送っていく。


 その日、流が素振りをしていると、

「流ちゃん」

 水緒がやってきて手拭いを渡してくれた。

 それから水緒は流の前にてのひらを差し出した。


「あのね、これ、流ちゃんに」

 小さな鈴の付いた青い布で折った鶴が載っている。

 ここで暮らし始めてから折り紙や双六すごろくなどの遊びも教わった。

 二人が初めて折れるようになったのが折鶴だ。

 流は布で出来た折鶴を手に取った。

 鶴はほどけないように糸でってある。

 そして青いり紐が付いていた。


「この前、きれ売りの人が来たとき、この青い布が流ちゃんに似合いそうだなって思って」

 きれ売りというのは半端な長さや形の布を棒に掛けて売り歩く商人である。

「水緒が作ったのか?」

「うん。流ちゃん、この前お財布落としたでしょ。鈴の付いた根付けを付けておけば落としてもすぐ分かると思って」

「そうか」

 財布に付けようと思って懐に手を入れたが今は財布を持っていなかった。

「後で付けとく」

「そうして。あのね、私もお揃いで作ったの」

 水緒は懐から自分の財布を出して見せた。

「鈴二つ買ったらお金がなくなっちゃって、布があんまり沢山買えなかったから鶴が小さくなっちゃった」

「器用なんだな。上手く出来てるじゃないか」

「有難う」

 水緒は嬉しそうに微笑わらった。


「あ、そろそろ稽古の時間だね。また後でね」

 その時、門弟の一人がやってきた。


 小森って言ったっけ……?


「桐崎殿。あ、水緒さん、おはようございます」

 小森の頬がわずかに朱に染まった。


 こいつ、水緒に気があるな。


 流は小森を睨み付けた。


「おはようございます」

 水緒は小森に軽くお辞儀をすると、その横を通り過ぎた。

 少し行ったところで振り返ると流に小さく手を振る。

 流は軽く手を上げて応えた。

 小森は流に何か聞きたそうな顔をしていたが無視した。

 木刀を持ったまま家の中に入ると早速根付けを自分の財布に付けた。


「流、そろそろ稽古だぞ」

 桐崎に声を掛けられて流は道場へ向かった。

「流、今夜は仕事だからな。水緒の迎えは早めに行け」


       二


 流はここ数年で剣の腕が上がった。

 勿論まだまだなのだが桐崎の化物討伐に同行出来るくらいにはなった。

 討伐は大抵桐崎、小川と三人で行く。

 化物が現れるところで待ち受け、討伐対象がやってくると小川が結界を張って敵に逃げられないようにする。

 討伐の依頼人は対象の化物に狙われていることが多い。

 当然敵は依頼人の前に現れる。

 小川は依頼人にも結界を張る。

 化物を倒したはいいが依頼人も死んでしまった、なんてことになったら報酬がもらえなくなるからだ。

 それに依頼人を死なせた、などという事になったら当然評判が落ちて依頼してくる者もいなくなってしまう。


 今回の依頼人は大身たいしんの旗本だった。

 しばらく前から夜になると化物が屋敷に現れるようになったという。

 屋敷には結界が張ってあるので化物が入ってくることはないが建物の周りを彷徨うろつかれては夜、外出することもままならないし外聞も悪い。

 と言うことで退治の依頼が来た。


「拙者がここにいる必要は無い。そうであろう?」

 屋敷の庭で依頼人の長男が中に戻りたそうにしながら何度も繰り返している。

 事前の調査の結果、化物が狙っているのは依頼人の長男だと言うことが分かったのだ。

 それで囮として庭にいてもらうことにした。


「来た!」

 流が逸速いちはやく察知した。

 次の瞬間、庭に何かが飛び込んできた。

「出た!」

 長男がおびえた様子で後退あとずさりした。

 頭が三つある犬の化物だった。

 三頭、いや、もっとか。

 複数の犬の怨念が集まったものだ。

 化物は真っ直ぐに長男に向かっていく。


「うわあああああ!」

 長男が頭を抱えてうずくまった。

 化物が長男の直前で結界に弾かれる。

「この犬どもに心当たりがありますな」

 その言葉に、長男がびくっとした。

 桐崎達は何故犬の化物がこの男の前に現れたのか分かっているようだ。


「こいつらを斬りましたな」

「そ、そなた達はそいつを退治するために雇ったのだぞ! 早く、その化物を……」

「行いを改めていただけなければまた同じ事が起きますぞ!」

「し、仕方なかったのだ。手に入れた刀の切れ味を試したかったが、辻斬りをするわけにはいかぬし、それで犬を……」

 桐崎と小川は、そんなことだろうと思った、と言うような表情をした。

 どうやらこの手の依頼は初めてでは無いようだ。

「もうせぬ。もうせぬから、早くそやつを……」

 桐崎は仕方ない、と言う顔で太刀を抜くと化け物の頭に一閃させた。

 化け犬がちりになって消える。

「成仏しろよ」

 小川は消えた化け物に手を合わせると結界を消した。

 報酬を受け取ると三人は屋敷を後にした。


「嫌な仕事だったな」

 小川が言った。

「生類憐れみの令があった頃はこんな依頼は無かっただろうにな」

「あの犬どもは弱かったから殺された。生きてた時も、死んだ後も。同情は必要ない」

 流もそうだ。

 ずっと鬼に命を狙われて生きてきた。

 襲ってきたヤツらが流より弱かったから生き残れたが、強いヤツに襲われてたら死んでいた。

「やはり鬼は鬼か。水緒が心根の優しい娘で良かったな。悪女だったりしたら目も当てられなかったぞ」

 小川が桐崎に囁いた。

「うむ」

 桐崎が小さく頷いた。

 流はなんと言われても気にならなかった。

 水緒の悪口さえ言われなければどうでもいい。


「こういう嫌な仕事は酒でも飲んで忘れたいものだな」

「一杯やっていくか」

「ダメだ」

 流が即座に言った。

「水緒が待ってる。俺達が帰るまで寝ないんだ。早く帰ってやらないと」

「しかしな……」

「おっさん達が飲みに行くなら俺は先に帰る」

「流……」

「師匠、お先に失礼つかまつりまする」

 流はそう言うと桐崎達に背を向けて歩き出した。


「水緒、帰ったぞ」

 流が玄関を開けると奥の部屋から水緒が急ぎ足で出てきた。

「お、お帰りなさい、ませ……だっけ?」

「二人だけの時は必要ない」

「でも、おじさん……おじ様が」

「気にするな」

 差料さしりょうを水緒に渡すと居間に向かった。

 水緒が刀を抱えて後からいてくる。


「お夜食があるよ。食べる?」

 流が頷くと水緒は刀を刀掛に置いてから台所へ向かった。


 水緒はすぐに茶漬けと漬け物を盆に載せて持ってきた。


「水緒、おっさんの分はいらないからな。飲みに行くって言ってたから、そこで何か食ってくるはずだ」

「うん」

 水緒が素直に頷いた。


「流ちゃん、明日のお天気は良さそう?」

 水茶屋からの帰り道だった。

「大丈夫そうだ」

 流は鬼だからなのか天気に敏感だった。

 雨が降る前は何となく肌に湿った空気を感じる。

 外れることもあるのだが水緒は流を信じ切っていた。

「桜がそろそろ満開でしょ」

 水緒は道端に生えている桜を見ながら言った。

「明日の帰り、お花見はどうかなって」

「分かった。おっさんに言っとく」

 水緒は水茶屋があるし流も剣術の稽古があるので行くのは夕方からになる。


 二人が江戸に出てきてから最初の一年、桐崎は花見、ほおずき市、川開き、紅葉狩りと色々なところに連れて行ってくれた。

 水緒がそれをすごく喜んだので次の年から二人だけで行くようになった。

 桜は何処も八分咲きくらいらしい。

 近所に咲いている桜は満開に近い。


 翌日、流と水緒は花見の場所へ向かった。

 水緒は流の袖を掴んでいてくる。

 江戸に来てから二人で人混みを歩くときは水緒はいつも流の袖を掴んでいた。

 流としては手を繋ぎたかったのだが、桐崎が人前でべたべたすると悪い噂が立って水緒が困ると言うので我慢していた。

 本当はもっと色々注意するべき事があるらしい。

 これでも緩い方なのだそうだ。


 流としては桐崎の家にいる義理はない。

 水緒といられるなら山奥だっていいのだ。

 しかし水緒はやはり山奥より町中の方が良いだろう。

 水緒のことだからきっと流が山奥で二人だけで暮らしたいと言えば一緒に来てくれるはずだ。


       三


 問題は山奥で人間が暮らしていくのは容易ではないと言う事だ。

 家は廃屋を見付けるとして食い物や暖を取るための薪を集めるのは大変だ。

 人里離れた場所という事は店がないのだから買うことも出来ないし、金を稼ぐことも難しい。

 稼ぐためにしろ買うためにしろ人と接触する必要があるなら決まりとは別の意味で色々面倒だ。

 桐崎の家は人間の中では恵まれている方らしい。

 それは言われるまでもなく水緒が村にいた頃を思い返してみれば分かる。

 水緒に不自由な思いをさせたくないなら桐崎の家にいた方がいいのだ。


 人混みを抜け二人は人気のない路地に入った。

 その路地を抜けた先の空き地の隅に他の木々に紛れて小さな桜が一本だけ生えている。

 ここは二人だけの花見の場所だ。

 初めて水緒と二人だけで花見に来た時、道に迷って入り込んだのがここだった。


 何とか上野への道を探そうと地図と首っ引きになっている流に、

「流ちゃん、ここでいいよ。桜、ちゃんと咲いてるよ」

 と言った。

「たった一本、それもこんな小さい木だぞ」

「大きくても小さくても桜は桜だよ。私にとっての流ちゃんと同じ」

 水緒はそう言って微笑んだ。

 それは流にとっての水緒も同じだった。


「ね、ここを二人だけのお花見の場所にしよう。ここなら静かに見られるし」

「水緒がそれでいいなら」

 確かに水緒しかいない場所なら気を張り詰めている必要がないから流としても異存はない。

 それ以来、二人は毎年ここへ来ている。


「この木、大きくなってきたね」

「そうだな」

「あのね、私の錦絵にしきえを描きたいって言われたの」

 水茶屋の看板娘を錦絵に描くことは良くあった。

 店の方も宣伝になるので快諾する。

「一枚くれるように頼んだの。流ちゃん、貰ってくれる?」

「ああ」

 江戸中から水緒を見に男どもが集まるのかと思うと不愉快だが引き受けてしまったのなら仕方ない


 流が辺りを見回した時、桜の背後の崖の上に白い花が咲いてるのが見えた。

 白い色が水緒の純粋さを、風に揺れる姿がか弱さを表しているように思えた。

 流は崖に取り付いて上った。


「流ちゃん?」

 流が花を取った途端、足場にしていた石が外れて転がり落ちてしまった。

「流ちゃん、大丈夫!?」

 水緒が慌てて駆け寄ってきた。

「これ」

 流は花を水緒に差し出した。

「私に? 有難う。流ちゃんからの贈り物なんて嬉しい」

 水緒が本当に嬉しそうな笑顔で言った。

 あまりの喜びように流の方が戸惑った。


「雑草だぞ。そんなに喜ぶほどのものか?」

「雑草じゃないよ。流ちゃんがくれたお花」

 水緒が花を愛おしそうに見た。

 思わず花に嫉妬しそうになるほどに。

「可愛いお花」

 水緒が匂いを嗅ぐように花を近付けた。

「とっても綺麗だね」

 水緒がまぶしいほどの笑顔で言った。

 そんなに喜ぶならかんざしとかくしとか、もっと高価な物にすれば良かった。


「ね、帰ろう」

「え? もう?」

「早く帰ってこのお花に水あげないと、しおれちゃうから」

 水緒は花を大事そうに胸に抱えて帰った。


「ただいま帰りました」

 二人が入って行くと奥から桐崎が出てきた。

「早かったではないか」

「おじ様、見て下さい。これ、流ちゃんがくれたんです」

 水緒はそう言って桐崎に花を見せた。

「ほぉ、まるで水緒のような花だな」

「ホント?」

 水緒がくすぐったそうに笑う。

「早くお水に入れなくちゃ枯れちゃう」

 そう言うと湯飲みを出してきて水を汲み、そこに花を生けた。


「このお花、何日くらい持つかな。ねぇ、おじ様、枯れないようにする方法はないですか?」

「あるぞ」

「ホント!?」

 桐崎は紙を出してくると、

「ここに置きなさい」

 と言った。

 水緒が言われたとおりにすると、その花を紙で挟んで床に置きその上に本を載せた。

「おじ様、お花が潰れちゃう」

「潰すのだ。そして乾かすと枯れなくなる」


 それは枯れるからだろ。


 と思ったが黙っていた。


 流は自分の部屋へ入ると持っている金を全部出して数えた。

 桐崎から小遣いを貰っているし、それとは別に化物討伐を手伝えば手伝い料をくれるが使うことはほとんどない。

 せいぜい水緒を迎えに行った帰りに冷や水売りや心太ところてんなどを買い食いするのに使うくらいだ。


「流、明日の討伐のことなんだがな……」

 流が金を数えていると桐崎が入ってきた。

「なんだ流、結構持ってるじゃないか」

「そうなのか? 櫛か簪は買えるか?」

 流は桐崎を見上げた。

「櫛? 簪? 水緒がねだったのか?」

「水緒は欲しがらない。ただ、あんな花一つですごく喜んでたから、あんなものよりもっといい櫛とか簪とか……」

「分かっとらんな。そんなんでは櫛や簪を買っても無駄だ」

「どういうことだ」

「自分で考えろ。分かるまではせいぜい金を貯めておけ」

 桐崎はそう言うと翌日の討伐の話をして出ていった。


 数日後、桐崎が本の下から花を挟んだ紙を取り出した。

 水緒に紙を開いて見せた。


「これでもう枯れないぞ」

「有難う御座います。これならいつも持って歩けます」

 水緒は花を挟んだ紙を大事そうに手拭いに挟んで懐に入れた。


 ある日、流と水緒は桐崎に呼ばれた。

 床の間を背にした桐崎の向かいに流と水緒が並んで座る。


「実はな、お前達に縁組みの話が来た」

「お前達ってどういうことだ?」

「流には養子縁組、水緒は縁談だ」

「それぞれ別ってことか?」

「うむ」

 桐崎が頷いて流と水緒の様子を窺うように見ていた。


「断る」

 流は速攻で突っぱねた。

「ま、お前はどちらにしろいかれないがな。人間の姿をしているといっても鬼だ」

「おじ様、流ちゃんは最可族……」

「鬼でいい」

 流自身、保科に会うまでは鬼だと思っていたのだ。

 最可族と言われるより鬼と言われた方がしっくりくる。

「生まれた子も半分は鬼の血を引くことになるからな。下手な家に養子に出すわけにはいかん」

 だったら最初から聞くなよ、と思ったが黙っていた。


「おじ様、それ、受けないとこの家にいられないの?」

「いやいや、縁談というのは嫁に行くと言うことだから受けたらこの家から出ていくことになる」

「私、流ちゃんと離れたくない。断ったらダメですか?」

「断れないならこの家にいることはない。水緒、出ていこう」

「待て待て。お前達に来た話だから一応話しただけで断れないとは言ってない。嫌なら断るからいいんだ。今の話は忘れてくれ」

 桐崎は急いで言うと、この話を打ち切った。


       四


 朝、素振りをしていると水緒が手拭いを持ってやってきた。


「そろそろお稽古の時間だよ」

 流は水緒から手拭いを受け取ると汗を拭いた。

 そこへ小森がやってきた。

「桐崎殿、水緒さん。おはようございます」

「おはようございます」

 水緒が礼儀正しく挨拶を返した。

「お二人は許嫁いいなずけだったのですか」

 小森の言葉の意味が分からなかったらしく水緒は訊ねるように流を見上げた。

 おそらく桐崎は縁談を持ち掛けてきた家に流と水緒は許嫁同士だから、と言って断ったのだろう。


「そうだ」

 流は即答した。

「これは知らぬこととはいえ失礼しました」

 どうやら小森の親が水緒に縁談を持ち込んだようだ。

 水緒は相変わらず小森の言ってることが分からないらしい。

「水緒、そろそろ時間だ」

「あ、そうだった。失礼します」

 水緒は流に手を振ると歩き出した。


 流が道場に入ろうとした時、中で怒声がした。


「そこもとが物でつってお和を籠絡ろうらくしたのであろう!」

 石川が今にも掴み掛かりそうな勢いで怒鳴った。

「お和は貧乏御家人より金持ちの旗本を選んだだけだ」

 奥田が嘲笑った。

 流は眉をひそめた。

「お和殿も贈り物には弱かったようですね」

 小森が流の隣で言った。

「どういうことだ?」

「お和殿は元々石川殿の幼馴染みだったのです。内々にではあったが言い交わしていた様子。そこに奥田殿が割り込んだのです。何でも高価な櫛や簪などで贈り物責めにしたとか」

 小森がそう教えてくれた。

 流は殴り合いの喧嘩になりそうな二人の間に割って入った。


「喧嘩なら外でやれ。もう稽古が始まる」

「こちらは喧嘩などする気はない。石川殿が勝手に怒鳴り散らしているだけのこと」

「勝手なのはどちらだ!」

「うるさい、出ていけ」

 流は静かに二人に向かって言った。

「桐崎殿もせいぜい水緒殿を取られぬようにな!」

 石川が捨て台詞をいて出ていった。

 そこへ桐崎が入ってきた。


「何事だ」

「なんでもない……なんでも御座いません」

 流がそう言うと周りを取り囲んでいた門弟達が散っていった。

「流殿も奥田殿にはお気を付けて」

 小森はそう囁くと離れていった。


 捨て台詞を吐いていった石川じゃなくて、奥田?


 と思ったが、すぐに小森の言葉の意味を理解した。


 そうか奥田が石川の女に手を出したと言うことは水緒にも手を出すかもしれないと言うことか。

 けど、おっさんが言っていたことと矛盾しないか?


 桐崎は高い物を贈ればいいというものではないと言っていた。

 流には訳が分からなかった。


 その日、水茶屋からの帰り道で、

「水緒」

 流の少し後ろを歩く水緒を振り返った。

「水緒は贈り物されると嬉しいか?」

「どういうこと?」


 流は石川と奥田の話をした。


「う~ん、他の人のことはよく分からないけど……」

 水緒はそう言って懐からたたんだ手拭いを取り出した。

 開くと流が贈った花の押し花が挟まっていた。

「私がこの花を貰って嬉しかったのはね、流ちゃんが私のために摘んでくれたから。その気持ちが嬉しかったの。簪とか櫛とか、貰って嬉しいのは、物が欲しいからじゃないの。私のことを思って贈ってくれた、その気持ちが嬉しいの」

 水緒はそう言ってから「私はね」と付け加えた。

 ただあげればいいというわけではないらしい。


 おっさんが言ってたのはこういうことか。


 しかし石川の幼馴染みは奥田の贈り物になびいたという。


 ま、他の人間はどうでもいい。


 桐崎の言うとおり、今は金を貯めて、いつか水緒に飛び切りの贈り物をしよう。


 その夜、夕餉の席で、

「おじさ、おじ様。あの、流ちゃんと許嫁ってどういうことですか?」

 水緒は桐崎に訊ねた。

「水緒は不満か?」

「許嫁って、流ちゃんのお嫁さんになれるって言うことですか?」

「そうだ」

「わぁ、本当に? 流ちゃん、お嫁さんにしてくれる?」

「なってくれるか?」

 流が訊ねた。

「うん!」

「よし、決まりだな」

「おっさん、本当にいいのか?」

 生まれる子供の半分は鬼の血を引くからと言っていたではないか。

「いいも悪いも、お前、水緒が他の男の嫁になったらどうする」

 そんなことになったらどうなるか分からない。

 考えるだけで頭がおかしくなりそうだし耐えられそうにない。


 夕餉が終わり水緒が食器を下げて台所に行ってしまうと、

「流、あまり水緒に入れ込みすぎるな」

 桐崎が言った。

「どういう意味だ」

「お前は今のところ水緒と同じ早さで成長しているようだが……」


 鬼と比べたら人間は短い。

 おそらく水緒が寿命をまっとうしたとしても流よりずっと先に死ぬだろう。

 水緒がいなくなった後の時間の方が遥かに長い。


 桐崎はそう言った。

 その言葉に流は衝撃を受けた。

 そんなことは考えたこともなかった。

 もしも水緒が先に死んでしまったらどうしたらいいのだろう。

 水緒がいない世界なんて考えられない。


「水緒を失った後のことを考えて鬼でも妖でも、人間より長生きをする者とも交流を持った方がいいだろうな」

 人間の寿命はただでさえ短いのにまっとう出来る者は少ないのだから水緒以外にも親しい相手がいた方がいいと言われた。


 いつものように稽古の後、水緒を迎えに行った。

 しかし店はまだまだ人がいて終わりそうにない。


 少し早すぎたか……。


 流はその辺をぶらついて時間を潰すことにした。

 草むらに目を向け水緒にあげるのに良さそうな花はないか探した。

 この前と同じ花はあるが同じ花を渡しても仕方ない。


 気持ちが嬉しいのだと言っていたから水緒は喜んでくれるだろうが……。

 別の花はないだろうか。


       五


 花を探している時、不意に、

「最可族!」

 流はぎょっとして自分の腕を見た。

 いつの間にか袖が少しめくれて祟名が見えている。

 目を上げると水緒と同い年くらいの女がこちらを睨んでいた。


「あたしを殺しに来たのかい!」

「何の話だ」

 女の首に「身虫」という文字がある。


 この女も最可族か……。


「お前こそ俺の刺客じゃないのか」

 流と女は睨み合った。

「あんた最可族でしょ。あたしを殺しに来たんじゃないのかい?」

「お前も最可族に狙われてるのか?」

 流の問いに、女が戸惑ったような表情をした。

「お前もって、あんたも最可族に狙われてるのかい?」

 二人はお互いに見つめ合ったまま立ち尽くしていた。

 どうしたらいいのか分からなかったのだ。

 初対面で信用するわけにはいかないが、敵ではないなら戦っても骨折り損だ。

 何より相手が最可族では下手に戦うと人の姿が保てなくなるかもしれない。


 互いに様子を窺っているとき、

「流ちゃん、お待たせ」

 水緒がやってきた。

「水緒」

 流はさり気なく水緒と女の間に入って、水緒を庇った。

「流ちゃん? どうしたの?」

 水緒が心配そうに流を見上げた。

「いや、なんでもない。帰ろう」

 流はそう言って水緒を促すと、女をけるようにして歩き出した。

 背中に女の視線を感じながら。


「水緒、ちょっといいか」

 桐崎の声が聞こえてきた。

 部屋で書見しょけんしていた流は部屋から台所の方を覗いた。

 夕餉の支度をしていた水緒が振り向く。

「はい」

「お前、奥田を知っているのか?」

「奥田?」

 水緒は少し首を傾げてから、

「ああ、おじ様の門弟の。その方がどうされたのですか?」

 と訊ねた。


「うむ、実はな。これをお前にと渡されたのだ」

 桐崎は懐から包みを取り出すと水緒に櫛を見せた。

 漆塗りに金蒔絵の高価そうな物だった。

「これを? どうして私に?」

「まだお前を諦めてないのではないか?」

「まだ?」

「この前の縁談を持ちかけてきた一人が奥田なのだ」

「受け取れません。私には流ちゃんがいますから。おじ様から返しておいてください」

「分かった」

 それを聞きながら流は小森の、奥田に気を付けろ、と言う言葉を思い出していた。


 今度は水緒に手を出すつもりか。

 と言うか奥田も水緒に縁談を申し込んでいたのか。


 石川の幼馴染みを籠絡ろうらくしておきながら縁談は申し込まなかったのだ。

 確か石川と言い交わしていたと言う話だが、一度奥田に乗り換えてしまったのなら石川はもう貰ってくれるか分からない。

 にも関わらず縁談は水緒に持ち掛けてきたと言うことは石川の幼馴染みは奪うだけ奪って捨てたのだ。

 それに縁談を持ち掛けてきた一人と言うことは小森と奥田の他にもいるかもしれないと言うことだ。


 流は水緒の見目みめなど気にしたこともなかったから可愛いとか綺麗だとか思ったことはない。

 しかし実際、水緒は可愛い。

 錦絵に描きたい、なんて言ってくるヤツもいるくらいだ。


 流が水緒を好きになったのは顔に惹かれたわけではない。

 水緒自身が好きなのだ。

 顔の良し悪しは関係ない。

 だが、こうなると醜女しこめの方が良かったのかもしれない。

 醜女なら顔目当てで寄ってくる男はいなかったはずだ。

 水緒が奥田からの贈り物を受け取らなかったことで話はんだと思っていた。


 だが数日後、流が水緒を迎えに行くと水茶屋にいなかった。

 女将に聞くと、たった今、流からのふみで呼び出されて近所の神社に行ったという。

 流は慌てて神社へ駆け出した。

 近付くにつれて水緒の声が聞こえてきた。


「やめ……! 離し……!」

「早く押さえ付けろ。大人しくしろ!」

 何かをはたく音が聞こえた。

「っ!」

 流は神社の境内に駆け込むと声のする方へ向かった。

 水緒は祠の裏の草むらに押し倒されていた。

 門弟達が水緒を押さえつけ、奥田が水緒にのし掛かろうとしていた。

 流は頭に血が上った。


「貴様ら!」

 奥田を思い切り殴り付けると押さえている男達を蹴り飛ばした。

「水緒……!」

 無事か、と聞こうとして水緒の唇が切れて血が出ているのに気付いた。

 奥田に叩かれたのだ。

「この!」

 倒れている奥田の襟首を掴んで立ち上がらせると、二発、三発と殴った。

「流ちゃん! もうやめて! それ以上やったら死んじゃうよ!」

 ようやく立ち上がった水緒が流の腕を掴んだ。

「こんなヤツ……!」

「もういいよ、もう帰ろう」


 水緒の哀願するような声に流は手を下ろした。

 奥田は気を失ってぐったりしている。

 他の門弟達はとっくに逃げていた。

 二度と水緒に手を出すな、と言いたかったが気を失っているのでは聞こえない。

 流は奥田を放り出すと水緒の唇の血を手拭いで拭ってやった。


「流ちゃん、ごめんね」

「お前が謝る必要はない」

 流はそう言いながら水緒の髪に付いている草を取ってやる。

「私が迂闊うかつだったの。流ちゃんの筆跡か、ちゃんと確認してないで来ちゃったから」

 水緒は流の筆跡が分からなかったことを気にしているらしい。

 流ちゃんから初めて文を貰ったのが嬉しかった、と水緒は言った。


「じゃあ、こうしよう。文には二人だけに分かるものを書こう」

「暗号みたいなの?」

「そうだ」

 とはいえ毎回同じ物を書いていたら誰かに真似される危険がある。

 それでは意味がない。

 流は少し考えてから、

「文を書くことになった時、最初に書く方が左下の隅に『一』って書くんだ。その返事は『二』、その次にどちらかが書く時は『三』て言う風に数字を増やしていく。そしてその数字の部分は受け取ったらすぐに破いて燃やすんだ」

 と言った。

「そっか、そうすれば他の人には今いくつか分からないね」

 水緒が目を輝かせた。

「数字忘れるなよ」

「うん」

 紙の端だけを破ればいいから文自体は取っておける。

 流としても水緒から来た文は取っておきたい。

 一緒に住んでるから今まで文を書いたことはなかったが折角暗号を決めたのだから書いてみようか。


 奥田とその仲間達は破門になった。

 その腹いせに桐崎道場の悪口を言っているらしい。

 水緒の事も悪く言っているようだが、流が叩きのめすまでもなく、奥田は水緒に振られて逆恨みしているのだと噂になっているようだった。

 どうやら石川が幼馴染みを取られた腹いせに言い触らしているらしい。


 奥田に襲われて以来、流は早めに迎えに行くことにした。

 水緒にも流が行くまでは店から出るなと言っておいた。


       六


 流が水緒の働いている水茶屋に向かっていると並びの店から、

「あ!」

 と言う声がした。


 振り返ると、この前の鬼――最可族――の女がいた。

 この水茶屋で働いているらしい。

 流は女が襲ってくる様子がないのを見て取ると無視して先を急いだ。

 女は様子を窺うように流を見送った。


「水緒、今日からは別の道を通って帰ろう」

「いいけど、どうして?」

「念のためだ」

 流がそう言うと水緒はそれ以上追求しなかった。

 あの鬼の女に水緒と一緒のところを見られたくなかった。

 水緒は流の唯一の弱点だ。

 流を狙うのなら水緒を捕まえるのが手っ取り早い。

 自分のせいで水緒を危険な目にわせたくない。


 水緒は今日水茶屋であったことを話し始めた。

 毎日その日にあったことを嬉しそうに話す水緒の優しく明るい声を聞いているだけで満足だった。


 他には何もいらない。

 水緒だけでいい。

 それだけで十分だ。


 数日後、水緒の迎えに向かったときだった。

 路地の角からあの鬼の女が出てきた。

 無視して通り過ぎようとした時、大きな鬼が樹の上から飛び降りてきた。

 手には大きな斧を持っている。


「待っていたぞ!」

 どちらにともなく言った。

 鬼が斧を振りかぶって並んで立っている二人の方に駆け寄ってくる。


 流は抜刀に邪魔な女を鬼とは反対の方へ突き飛ばすと振り下ろされた斧をかわした。

 刀を抜いて鬼の懐に飛び込むと斧を持っている左腕を切り落とす。

「ーーーーー!」

 鬼が吠えて残った右腕を振り上げる。

 右腕の裏側に文字が見えた。


 最可族の刺客だ!


 流は刀を横に払って鬼の首を切り飛ばした。

 鬼が倒れる。

 流は懐から懐紙を出すと刀を拭きながら歩き出した。


「待ちなよ!」

 女が追ってきた。

「どうして助けたのさ?」

「助けた覚えはない。襲ってきたから倒しただけだ」

「自分が狙われたんじゃないのに?」

「あれはお前を狙っていたのか?」

「あんたの方だったのかい?」

「誰が目的だったのか言わなかったから分からんな」

「あれ、最可族だったよね。ホントにあんたも最可族に狙われてたのかい」

「ああ」

「どうして?」

「お前には関係ない」

 流はそう言って刀をおさめると足を早めて水茶屋に向かった。

「あたし、つね。あんたは?」

 流はそれには答えなかった。

 女が流の後ろ姿に何か言ったようだったが聞いてなかった。


「あ、流ちゃん。ちょっと待っててね」

 皿を片付けていた水緒は流に気付くと、店の中に引っ込み、

「お先に失礼します」

 と言って店から出てきた。

 流は水緒と一緒に歩き出す。


「水緒、最近変わったことないか?」

 流は水緒の方を見ながら訊ねた。

「変わったこと?」

「変なヤツを見掛けたとか」

 水緒はしばらく首を傾げて考え込んでから、

「ないと思うけど」

 と答えた。

「お前や俺のことを聞き回ってるヤツは?」

「そう言う話は聞いてないけど。大事なこと? 女将さん達に聞いておいたほうがいい?」

「いや、いい」

 流はそう答えて話を打ち切った。


 鬼が御用聞きのように聞き込みをするとも思えなかったし、なんといってもここはさかだ。

 色んなヤツ彷徨うろついている。

 中には不審な者もいる。

 大勢の中から流を狙っているヤツを特定するのは難しいだろう。

 ましてや狙いがあの女の方だとしたら流のことは聞かないはずだ。


 翌日、流が水茶屋に向かっていると鬼の女――つねがやってきた。


「あのさ……」

 流の目の前まで来ると足を止めて声を掛けてきた。

 無視して通り過ぎたら袖を引っ張られた。

「ちょっと! あたしが話し掛けてんだよ!」

「だからなんだ。俺には関係ない」

「あんたに話し掛けてんだから関係ないわけないでしょうが! とにかく、これ」

 つねは風呂敷包みを差し出した。

「昨日は助けてもらったからね。お礼に」

「いらん」

 流はそう言って袖を引っ張ってつねの手から抜くと背を向けて歩き出した。


「受け取りなよ! あんたのためにわざわざ作ってきた草餅くさもちだよ!」

 流は無視した。

「返事ぐらいしなよ! なんで受け取らないのさ」

「知らないヤツからの食い物なんか受け取れるか」

「食い物以外なら受け取るのかい」

「何もいらん」

「じゃあ、なんかするよ。何して欲しい」

 流は溜息をいて立ち止まった。

 つねの方に向き直る。


「ホントに何でもいいのか?」

「い、いいよ。あんまり無茶なことじゃなきゃね」

 つねが警戒するように言った。

「なら消えろ。目障りだ」

「…………!」

 顔を強張こわばらせて固まっているつねに背を向けると流は歩き出した。


 朝の稽古が終わり、門弟達はそれぞれいくつかの塊になって片付けをしながら話をしていた。

 流はどの輪にも入らず一人で片付けをしていた。

 流にとって水緒以外の人間はどうでもいい存在だ。

 名目上の親である桐崎でさえ足枷あしかせになるようなら切り捨てられる。

 ましてや他の人間など眼中になかった。

 友人など作る気はなかったから他の門弟ともろくに話をしたことがない。

 ただ世間のことを知るために他の門弟達が話していることは聞くともなく聞いていた。


「桐崎殿」

 小森が話し掛けてきた。

「水緒さんが錦絵に描かれるというのは本当ですか?」

「ああ」

 そういえば、近いうちに出るんだった。

「水緒さんの錦絵ならきっと売れるでしょうね。水茶屋も繁盛して忙しくなるでしょうな」

 あんまり水緒に有名になって欲しくないのだが。

 錦絵が売れれば江戸中に顔を知られることになるだろう。

 絵を見ただけでは供部と言うことは分からないだろうが旨そうだと思う化物も出てくるのではないかと思うと気掛かりだった。

 化物が錦絵を見るかどうかは知らないが。

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