第3話

 彼女。倒れている。自分も、かなりぎりぎりだった。


「おい」


 返事がない。顔を見る。世界に適応できていないのか。なんとも安らかに寝ていやがる。起きろ。そのままだとしぬぞ。

 煙草擬きを探す。彼女の身体。探る。


 無かった。


 煙草擬き。

 自分が持っている、これが。最後のひとつ。


 終わりが来てしまった。


 ここまで長々と、世界にしがみついてきた。彼女の隣にいたかった。それだけの思いで、ここまできた。それも、終わりか。

 煙草擬き。取り出す。

 彼女のようには、なれなかったな。最期まで女々しいままで。最期までたいした力も出せなかった。

 煙草擬き。一口だけ吸って。

 彼女の口許に。彼女のくち。どこか懐かしいような、ピーチのリップの匂い。最初で最後のキス。


 はずかしくて、すぐやめた。そのかわり、彼女のくちに煙草擬きを突っ込む。


 このまま、しぬか。彼女の隣で。起きた彼女は、なんと言うだろうか。


「いや」


 何も言わずに立ち去るか。それがいちばん、彼女らしいな。考えたら、なんか。笑えてきた。

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