第2話

「できてませんでした。子供」


 と、正直に伝えるしかなかった。はずかしいこと、このうえない。


 彼は、無言だった。


 私が彼と結ばれて、子供ができる可能性が生まれるぐらいにまで仲良くなったのは、前の世界の話で。今の世界とは繋がっていなかった。前の世界は、私が壊した。私以外に覚えている人間はいない。


 だから、彼の前で、子供ができたとか言って。からかっていたのに。私の肚のなかは、実にクリーンだった。なにも入ってない。


 この世界は。彼が壊すのか。それとも、私が壊すのか。


「誰との子供だったんだ?」


 今更訊きやがる。あんたとの子供だよ。覚えとけよばかが。

 とは言えず。


「誰だったんでしょうね」


 とか言ってみる。少しは悔しがってみろ。

 彼。

 煙草擬きを吸って、煙と戯れている。


 煙草擬き。これがないと、世界に適応できなかった。世界は、その都度かたちを変えていく。空気の組成が、前の世界と同じとは限らなかった。常に、煙草擬きのミントに頼らなければ。呼吸もできない。

 私は。彼がいなければ、世界に意味を持てない。彼がいなければ。私のなかに、常に彼がいないと。なんだかかなしい。


 彼は、そんなふうではなかった。いつもこうやって、屋上で煙草擬きをくわえている。まるで私が、いてもいなくても同じみたいな。そんな感じで。


「おりゃ」


 膝に。ひと蹴り。彼の体勢が、かくっと崩れる。


「なんだ」


「いえ。なんとなく」


 何度も世界を壊してきたけど。

 私と彼が結ばれると、だいたいおかしくなる。私がわるいのか、彼がわるいのか。それとも、そういう巡り合わせなのか。前の世界では、ようやく夜を共にするぐらいまで行ったのに。結局壊して、私のはじめては復活した。はじめてってなんだ。次はもう、2回目のはじめてじゃないのか。


「むずかしい顔してるな」


 うるせぇ。あんたが覚えてれば、同じことを繰り返すだけなんだよ。

 とは言えず。


 煙草擬きを吸って。言葉を煙に変えて。彼のほうに向かって吐き出す。

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