第7話
B SIDE
上林先輩とのランチの後、機関室で百瀬さんにお礼を言ってから教室へ戻り午後の授業の制作に戻る。みんな好き勝手なことしているように見えるが、課題を期限内に仕上げるというれっきとした授業である。黙々と作業をしている隣の席の洋ちゃんと不意に目があったので、先ほど上林先輩に紹介してもらったお店について相談してみた。
「この店知らんわぁ。ネットで調べてみた?」
「まだぁ、今調べてみる。」
スマホで店のホームページを探した。
「あった?へえ、こんなとこあるんやな。いい感じの店やん。」
写真で見る限り普通のこぢんまりとしたレストランの中にあるステージは極めて狭く、ライブをするにも弾き語り専門のようだった。
「それでプロフィール作らんといけんのやけど、なに書いたら良いんか分からんのよね。」
「プロフィールって普通にプロフィールでええんちゃうの?嘘書いてもしゃーないし背伸びしてもしゃーないやろ?バイトの面接行ったことあるんやったら、そんな感じで作ったらええんちゃう?」
「でもなぁ…ねえ、洋ちゃんとこプリンターある?」
「うちはあるけどって、そっか、華ちゃんとこプリンター無いって言うてたな。でもさぁプロフってメールで送ったらあかんの?」
「メールで送るん?」
「うん。あかんのかなぁ?」
「うーん。うちはちゃんと紙で持って行きたい派かな?」
「なにそれ。まぁええか。ほなメールで俺んとこ送ってくれたら書式整えてプリントアウトぐらいやったら手伝ったるわ。そん時にプロフの文章、おかしかったら俺が直すから。それでいい?」
「分かった。ありがとう。」
その夜に洋ちゃんにメールで送ると、次の日にはもうプリントアウトをして持ってきてくれた。
「これでええと思うわ。あとは写真どっかに貼っとき。これで完成と。」
「いつもお世話になります。」
送った文章よりもかなり添削されたプロフィールは、すっきり分かりやすく見やすくなっていた。
プロフィールが出来たその日の14時半に、一日作業の授業を抜け出し電話をかける。電話に出た早川と名乗った女性は、お目当てのブッキングマネージャーさんだった。上林先輩に教えてもらった通りに話をしアポを取る。学生ということで気を利かせてくれたのか、お店に行くのは今週の土曜のお昼の2時になった。
その今週の土曜日は校内ライブの次の日で、朝からスタジオ練習、その後はみんなでボリュームペダルを見に行くためにみんなで楽器屋さんに行く予定を立てていた。
「ちょうどええやん。せっかくやしみんなで付いてこや。でも外で待ってるで。大勢で行ったら迷惑やろし。」
そう言ってくれて、お店まではみんなが付いてきてくれることになった。
いよいよ金曜日の校内ライブ当日。リハは1番目で出番は2番目だった。放課後、みんなでこの間と同じホールに向かった。
「おはようございます!今日はよろしくお願いします。」
今回は率先して声を出せた。そしてPA卓にいる山藤先生に挨拶に行った。
「おはようございます。今回もお世話になります。」
「古賀さんおはようございます。今回もよろしくお願いします。それにバンド組んだんだってね。先生楽しみにしてるから。お~い吉川~!バンドさんに上がってもらっても良いかぁ~?…あ、OKみたい。じゃあ早速だけどセッティング出来る?」
「はい!」
早速、客席で楽器を取り出し用意を始める。芽以ちゃんは真っ先にステージに上ってドラムをセッティングし始めている。昨日の放課後のスタジオ練習の後に私と洋ちゃんで、他の二人に今日の流れとリハの仕方をレクチャーしていたのでみんな大丈夫そうだ。
今回は前回とは違いアンプで音を出すとセッティング表に書いて出してたので、きちんと指定したいつものギターアンプが用意されていた。間違いが無いようにメモをした紙を見ながらアンプとペダルのプリアンプのEQを合わせる。ギターからプリアンプを通ってDIに繋ぎ、DIから分岐したケーブルはギターアンプに既に繋がれていた。
足元の配線が終わってボーカルマイクの高さを合わせると、とりあえずやることがなくなったのでエレアコをステージ上に置いてあるギタースタンドに乗せ下に降りた。声はさっきまでアンサンブルの授業で歌っていたので問題は無い。洋ちゃんも私と一緒に降りてきて、芽以ちゃんはまだドラムのセッティングをしている。岳ちゃんは今日のPAさんだと思われる人となにか話している。
そんな様子を見ながら洋ちゃんと並んで椅子に座って待っていると、前回の進行をされていた廣田さんが声を掛けてきてくれた。
「古賀さん、おはようございます。今回バンドなんやね。」
「廣田さん。前回はお世話になりました。おはようございます。」
立って挨拶を返した。
「別に座ったままでいいのに。それにちゃんと名前覚えててくれたんやね。」
「はい!今回はバンドでお世話になります。廣田さんは今日は進行じゃないんですね。」
「うん、今日はPA卓の方の手伝い。毎月ローテーションで役割変わるからね。一応これPA科の授業だし。」
「そうなんですね。今日もよろしくお願いします。」
そうしている内にマイクでPAさん自身とモニターさん、舞台進行さんの紹介が行われリハが始まった。
キック、スネア、ハイハット、フロアタム、全体でとリハーサルはドラムから始まる。そして芽以ちゃんのコーラス用のマイクに「声をくださ~い!」というのを聞いて、洋ちゃんがステージに上っていった。
横には岳ちゃんが座っている。
「こういうリハするの初めてなんで、なんだか緊張しますね。」
「そやねえ。でもこないだは、うちこれ一人やったからね。」
「それは大変そうですね。」
二人で笑いあった。すっかり岳ちゃんもバンドの仲間だ。
芽以ちゃんのリハが終わると洋ちゃんのリハが始まった。洋ちゃんは手慣れた感じであれこれやり取りをしている。ベースは問題もなくスムーズに終わった。次の岳ちゃんはアンプ直なのでちょっとギターを弾くとすぐにリハが終わった。
ようやく私の番である。リハは2回目と言うこともあり迷惑をかけること無く終われたと思う。「あーあー」もすぐ終わった。
「モニターですけど、貰ってる紙に書いてる感じでいいんですか?」
モニターへの要望も先に提出している。
「はい、よろしくお願いします。」
「それでは、曲でもらえますか?」
曲を始めた。半分くらいで曲を止めモニターを確認する。私の声は自分のモニターにはっきり返ってきてるし、エレアコの音もちゃんとアンプから聞こえるので問題は無い。バンドのみんなも芽以ちゃんが「自分の声とボーカルの声がもっと聞こえると嬉しいです。」と言ったくらいで特に問題なかった。また曲をやり、確認して「では本番よろしくお願いします!」と、あっさりリハは終わった。
「古賀さん、バンドのみんなも問題なかった?」
リハが終わるとすぐに廣田さんがステージまで聞きに来てくれた。
「はい、大丈夫です。ちゃんと自分の声も聞こえますし。ね?」
みんなに確認しても「問題なかったです。」とのことだった。
「それじゃあ本番よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
廣田さんと別れると、続いて今日の舞台進行さんが声を掛けてくれる。
「荷物、出番が終わるまでは袖に置いておいていいですよ。ただし貴重品だけは自分で管理しておいて下さい。本番はオンタイムで考えてます。『ひみつのおと』さんは2番目なんで、開演時間には舞台袖に来ておいて下さい。よろしくお願いします。」
こうやって今日の進行さんの話を聞くと、前回の廣田さんは廣田さんでいっぱいいっぱいだったのかなって思った。
今回はちゃんと楽器を持って降りた。ケースに入れてステージの袖にまとめて置いておく。足元のプリアンプとケーブルは、ギターアンプの横に纏めて置いておいて良いとステージにいたスタッフさんに言われたのでそれに従った。
リハが終わり開場までの時間をどうしようかと考えていると、ステージではアコギとアコギボーカルさんのユニットの準備が始まっていた。進行表には1年生と書いてある。どちらも知らない人だったけど、ちゃんと見ておこうとみんなでそのまま客席に残っていた。アコギの人は歌わずにボーカル&アコギの人が一人で歌っていた。私達は何も言わずその様子をずっと座って見ていた。
その二人組のリハが終わると、ホールは会場の準備で慌ただしくなりそうだったので、とりあえず邪魔にならないようにと外へ出た。
「リハってあんな感じなんですね。淡々と終わりましたね。」
バンドのリハ自体が全く初めての岳ちゃんが感想を言っている。
「そうやね。自分らの為にリハするんと違うけんねえ。」
「うん。でもなんか不思議な感じ。私、こないだは華ちゃんを客席で見てたのにね。」
「そうやなぁ。こないだっても一ヶ月前かぁ。あっちゅう間やったなぁ。」
「そっかぁ。もう一ヶ月なんやねえ。」
あれから一ヶ月。芽以ちゃんと洋ちゃんとで始めたバンドも、岳ちゃんが入ってくれて、こうやってライブが出来るようになった。
「うち、先生に見に来てっていうん忘れたから行ってくる。もしなんかあったらお願い。」
「ほーい。」
私は一人で職員室に向かった。
「あのー、芝井戸先生いらっしゃいますか?」
「はい、どうしました?」
芝井戸先生が職員室から出てきてくれた。
「先生、今日見に来てくれる?」
「はい。学内でのことでしたらできるだけ参加しますよ。心配しなくても講評も書きます。いいライブ期待していますよ。」
「うん分かった!よろしくお願いします!それだけ~!」
先生が見に来てくるだけでホッとする。この安心感はなんなのだろうかと思いながら足早にホールに戻った。
ホールの入口に貼られた今日の出演者一覧を読む。前に上林先輩は「レイさんからの紹介」と言っていたので、このLeyというのがそうなんだろう。なので上林先輩は5番目だ。今回はちゃんと見ようと思った。
会場に入るともうお客さんが入っていた。薄暗いホール内を少し探してみたが、上林先輩はまだのようだった。
ひみつのおとチームは後ろの方に纏まっていたので、私はみんなと合流し時間までおしゃべりして過ごした。芽以ちゃんはこの間のお泊り会の時にマンションのエントランスで会ったRec科1年の女の子と話をしている。地元が同じ和歌山出身だったらしくあれから夜ご飯を一緒に行くくらいに仲良くなったらしい。
時間になり、私達はホールの出入り口から出て舞台袖に直通の扉から中に入り直すと、舞台袖では最初のユニットが待機をしていた。
いよいよひみつのおとの初ステージが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます