第5話

B SIDE


「食べる人は頼んで、はよミーティングしよか。」

 芝井戸先生とのカウンセリングで出た課題を話すために、いつものファミレスにやってきた。

「まずはバンド名かな?もう校内ライブの締め切りやろ?」

「うん、明日まで。」

「やったら今日中に決めんとまずいよな?なんかアイデアある人?」

 横文字の名前やペットの名前のようなものなど色々と出たけれどいまいちパッとしない。名前に理由付けが無いのだ。ネーミングセンスの無さにガッカリである。

「この後、話してる最中でも思いつき次第発表し続けてな。それでも今日ここで決まらんかったら、次の校内ライブ限定で『華乃バンド』な。ヨーイチローズよりは筋通ってるやろし先生も怒らんやろ。華ちゃんいいね?」

 私もネーミングセンスが無いので言い返せない。


 早速、注文した料理が運ばれてきた。食べながら話を進める。

「今日は話し合うこと多いから次々行くよ。先生も時間を上手く使えって言うてはったやろ。じゃあ次、華ちゃんのライブの件。先生は多分、そろそろ外で活動するのを考えて動けって言うてるんやと思う。」

「うん。そやね。」

「華ちゃんは次の校内ライブが人生で2回目やろ?ソロでライブ出ろって言うのは、客あしらいとかステージングとかそういうの含めてバンドの顔として経験積んでこいって言うてるんやと思うわ。」

「そっかぁ。でもうち出来るんかなぁ?」

「やるしか無いよ。俺らもライブしました。でもMCもグチャグチャで変なライブでした。ってなるんは望んでない。バンドのボーカリストなんやから仕方ないよ。それに…」

「それに?」

「一人のほうが身軽やろ。だからこそユニットとかやなく華ちゃんのソロライブなんやと思う。練習も個人練だけで済むし。華ちゃん頑張ろや。」

「私にも手伝えることあるなら手伝うし。」

「僕で良ければ、曲のことやギターのことで相談乗りますよ。」

 みんなに応援されて頑張ろうって思えてきた。それに先生は先を見据えて、今から始めることが必要だって思って言ったのだろう。じゃあ頑張らないと。

「それにバンド名が決まったらSNSでもなんでも良いから作って、華ちゃんソロの告知もそこでやりなさいって言うてはった。せやからバンドの活動の一部なんやろね、先生的には。」

「でもソロでライブするってもどうしたらええか分からんよ。ライブハウスとか知らんし。」

「そうやなあ。俺もソロで演るようなとこは知らんなぁ。」

「ん?バンドで演るようなとことは別なん?」

「一緒でもええけど、ソロでやるならそういうソロの人用のとこで演ったほうがええんちゃう?ひろ~いホールで一人より、こじんまりしたとこのほうがお客さんも近いやろし、そっちのほうが華ちゃんもええやろ?」

 想像してみたが、確かに広いコンサートホールのような会場よりも狭い喫茶店のようなお店の方が気が楽そうだ。

「こないだ楓さんとこに行く時に見た、カフェみたいな感じ?」

「そっちかぁ。俺はもっと薄暗いピアノバーみたいなとこイメージしてたわぁ。」

「場所については先生なんも言うてなかったし、明日もいっかい先生に聞いてみたら?」

「そうね。うん、聞いてみる。」

「ほなとりあえずこの話はこれでええかな?」


 議長の洋ちゃんがさっき取ったノートを見ながら話を進める。

「次、芽以ちゃんのコーラスの件。芽以ちゃん歌うの大丈夫なん?」

「うん、私歌うの好きやし、高校の時のカバー曲のバンドでもコーラスやってたし、別にかまんよ。」

「じゃあ華ちゃん、ハモリ付けれる?」

「多分大丈夫と思う。」

「そっか、これは問題無しと。2人に任せてもええかな?」

「OK!」


「じゃあ次、時間の使い方の件。あれってどういうことやと思う?」

「先生がおっしゃってたのは、スタジオ内での話し合いは時間が勿体ないってことでしたよね?」

「うん、でも専門学校にいる間の2年を、もっと上手に使いなさいって言ってる風にも聞こえたよ。」

「せやな。時間と期間を考えて計画的にせなあかんで、ってことなんやと思う。」

「それでうちのライブかぁ。」

「そういうことやろな。バンドがもうちょっと固まってきたらバンドでもライブを始めやなアカンやろし。曲もどんどん録音するなりしてストックすべきやと思う。動画も…録る?」

「動画は先生に聞いたほうが良いんちゃう?出して良い露出と駄目な露出ってあると思うし。」

「そうですね。下手に動くとそれに足引っ張られたり全く反応なかったりってことも有りえますから。先生に相談してみるのが良いと思います。」

「そういや、岳ちゃん。芝井戸先生どうやった?おもろい人やろ。」

「面白いかどうかは分かりませんが、ちゃんと生徒のことを見てくれる先生だと思います。それに耳も確かじゃないかと。僕はあの先生は信頼出来ると思います。」

「岳ちゃんが先生気に入ってくれて嬉しい!」

「は、はい。」

「ほな今度のカウンセリングの時にでも、先生と俺らで今後のバンドの進め方をしっかり決める時間作ってもらおか。いいかな?」

「意義無~し!」


「で、次はと。これで最後かな?例のノートの件。華ちゃん、例のノートってなに?」

「んとね。」

 進路説明会で芝井戸先生に教えてもらった誰にも見せない自分だけのノート、『秘密ノート』のことを話した。

「なるほどな。秘密ノートか。」

「ふふ。洋ちゃんが言うたら『秘密の音』みたいに聞こえるんよ。おもしろい。」

「もいっかい言うてみて?」

「秘密のと」

「そう聞こえるねえ。おもしろ!」

 確かにアクセントの違いなのか、芽以ちゃんの言うとおりだ。

「それ、有りじゃないですか?」

「ん?」

「岳ちゃん、何の話?」

「秘密ノート、秘密の音。どっちの意味にも取れるように。」

「もしかして、バンド名の話してる?」

「はい。」

「秘密ノート。秘密の音。英語やと…英語分かりきらん。ローマ字だと。よ~分からん。」

「華ちゃん、ひらがなは?ひみつのおと。ひみつのーと。」

 洋ちゃんのノートに書いてみる。

「伸ばさんと『ひみつのおと』のほうが字面的にはええかもね。」

「ひみつのおと。うん、なんか変やけど面白い。これでどう?」

「いいんちゃう?岳ちゃんお手柄やなぁ!」

「いえ、そんな。」

「じゃあ決まり!このバンドは『ひみつのおと』になりました!」

「おおお!」

「これでやっと色々進められるな。と、その前に、秘密ノートのことやな。」

「ふふふ。」

「芽以ちゃんはほっといて、そのノートのことやけど、それってネタ帳ってこと?」

「うん、そんな感じ。でも先生は誰にも見せるなって。」

「見せたらあかんの?」

「うん。だから秘密。」

「あーそっか。人に見られたら、思ったまんまのこと残せなくなりそうやもんねえ。」

「そういうこと。だからうちのもみんなには見せん。これ、バンドの生命線やからね。」

「分かった。」

「それを僕たちにも作れってことでしょうか?」

「色んな形で役に立つからってこと違うんかな?」

「せやな。ネタ帳ならイメージしやすい。それに後から見返すんが目的やろな。そっか。俺も作ってみよ。」

「うん。それでバンドの為になるってこと、曲でも詩でも活動方針でもなんでもいいからとりあえずメモ。んで、形に纏まってからみんなに話して欲しい。」

「うん、分かった。私も作る。」

「僕もじゃあ。」


「ほなこれで一通り決まったんかな?えーっと。バンド名、華ちゃんのライブ、芽以ちゃんのコーラス、時間の使い方、秘密ノート。それで保留がバンドの告知方法と動画とバンドの進め方っと。大丈夫っぽいね。」

「ふふふ。」

 洋ちゃんが言う秘密のとが芽以ちゃんのツボに入ったようだ。

「SNSとかは華ちゃんのライブが決まってからでええかな?」

「うん。」

「洋ちゃん。校内ライブの申込み書って今持ってるん?」

「うん、持ってるで。そっか、ほな今ここで仕上げよか。」

 バンド名を書き込むだけだったので、すぐに仕上がった。

「バンドのセッティング表ってこうやって書くんやねえ。」

 洋ちゃんが書き込んでくれていたバンドのセット図を初めて見た。

「前にバンドやってた時に一回書いたことあるし多分これで良いはず。」

「私のドラム、シンバル一つ増えたよ。あとコーラスマイクも。」

「あ、ほんまや。書いとこ。」

 図になったドラムセットや立ち位置が矢印で書かれたバンドのセット図は見ていて面白かった。他に持ち込み機材なんかも書いてあった。

「なぁ華ちゃん。こないだの校内ライブのリハん時に演奏する曲とか紙に書いた?照明とかモニターへの要望とか。」

「うーん、書いた覚えない…と思う。」

「1曲やしなぁ。ほなモニターへの要望もここに書いとこか。」

 今日のカウンセリングで、洋ちゃんがライブでのモニターの話を先生に聞いてくれたのを受けて、洋ちゃんが主導で各自のモニターへの希望を纏めた。このくらいのホールの大きさだと満遍なく全体の音を返すのでは無く、基本なんにも無しで自分の声だけとか必要な音だけをピンポイントで返して貰うって形にする方が良いらしい。じゃないと生音が十分聞こえるような狭いステージでは、モニターの音とが混ざってごちゃごちゃするかもって先生が言ってた。


「そーいや、ボリュームペダルは使わんの?岳ちゃん?」

「あったほうがいいですか?」

「ボリュームペダルは持ってたほうがええやろな。演奏してない時は確実に音消えるようにしとった方がええ。プロでも音出しながらチューニングする人はおらんやろ。」

「それ、前に先生も言うてたかも。」

「ほな今度みんなで楽器屋見に行くか?」

「お願いします。」

「ボリュームペダルて言うても、重たいのから軽いのからでかいのやちっこいのやら安いのクソ高いのって色々やから。そういうの分かるサイト家帰ったら送るわ。」

「ありがとうございます。」

「あんなぁ、私もドラムのなんか買おうか考えてるんよ。」

「なに買うん?」

「今持ってるのキックのペダルだけやし、2年の先輩はマイスネア持ってたんよねえ。どうなんやろ、私も買ったほうが良いんかなぁ?」

「ドラムのことうちら分からんし、それも芝井戸先生に聞く?明日一緒に聞きに行く?」

「うん、華ちゃんも一緒やったら嬉しい。」


 こうしてミーティングは終わり、バンド名が決まった。『ひみつのおと』青春っぽい!

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