第26話
アルファードは警察の駐在所の前で向きを変えた。
エンジンをかけたまま、吾郎は建物の中に入って行く。
「吾郎さん …… 」
立ち上がった栄太は今にも泣き出しそうだ。部屋の奥には顔面蒼白で震える女性が二人。床には生気の消えた知子が座っていた。
栄太の足元には帰郷と米村が倒れている。息がないのは明らかだ。
吾郎はかがみ込むとすばやく死体を調べた。
米村は刃物で心臓を一突きされた以外、目立つ外傷はない。
帰郷の死体は凄惨だった。
両腕は反対側にへし折られ、肘を突き破り尺骨が飛び出ている。
剥き出しの上半身は胸部から下腹部まで縦一文字に切り裂かれていた。
床に散乱する血と臓物は帰郷のものだ。—— ひどいことをしやがる!
「死んで …… ますか?」
栄太はゲロで汚れたシャツを脱ぎながら言った。
「ああ、死んでる」
栄太は低い声で泣き始めた。
変わり果てた姿の帰郷だったが、吾郎は怒りを覚えた —— 拷問され、カーサミアの場所を吐いたに違いない。
「妹のモモはどこにいる?」
「それが …… 捕まえた時は一緒だったんすけど、その …… 逃げられました」
「逃げられただと?」
ものすごい剣幕で睨まれ、栄太は震え上がった。
「いえ、その……、誰かが連れ去ったんだと思います。こいつを取り押さえるのに必死で …… 」
吾郎は床に座り込んだ知子に目を向けた。近づいても顔を上げようとしない。
「モモはどこへ行った?」
返事はない。
「ブツをどこへやった?」
知子は床を見つめたまま「くたばれ!」とつぶやいた。
吾郎は知子の頭をブーツで踏みつけた。床との間で何度も踏まれる内に意識が途切れた。
「あのぅ、これじゃないですか?」
愉子が震えながらラムネの袋を差し出した。吾郎はひったくると中身を確認した。
「もう半分はどうした?」
「こいつが持ってたのはこれだけです」
「クソがッ!」
腹立ち紛れに近くの椅子を蹴飛ばした。知子の髪をつかむと、引きずりながら玄関口を出た。アルファードの後部座席に放り込むと自分も運転席に乗り込んだ。
3人の子供が車に駆け寄った。
「 —— 吾郎さん、俺たち、どうすれば?」
「死ね、クソガキ!」
五郎は構わず車をスタートさせた。
黒いアルファードは夜の国道へと消え、残された栄太、愉子、美穂は駐在所の前に茫然と立ち尽くした。
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