第22話

 「ガキを逃がしやがってぇ!」


 栄太の父、帰郷ききょう秀則ひでのりは駐在所で毒づいた。

 釜辺町でただ一人の警察官、米村よねむら啓介けいすけから、子供2人を確保したとの連絡を受け、駆けつけてみると駐在所はもぬけの空だった。


 「すまん。あいつら、俺の女房を殺しかけたんだ」


 米村の妻は勝手口の床の上で失神していた。


 「おまえの変態趣味なんてぇ知るかよ!」


 「—— 今から探しに行ってくる」

 米村は制帽をつかんで飛び出しかけた。


 「待て待てぇ! ガキは俺の息子が見つけた。もうすぐここに連れてくる」

 帰郷は出て行こうとする米村を制した。


 「それより、チョンの方は何かわかったんかぁ?」


 「さっき通報があってチョンを注意してきた。あいつらはヤバイよ。なんて言うか …… 目つきが普通じゃない。犯罪者に間違いない」

 米村は先ほどの出来事を思い出して身震いした。


 「何人いた?」


 「人相の悪いやつ4人。ところで吾郎さんは?」


 「見つかると1番マズいからなぁ。どっかで震えてんだろうよっ」


 「これからどうするんだ?」


 「さぁ。ガキを捕まえてブツのありかを吐かせ、チョンに返すしかないだろう」


 「そうか。これ以上、ここには来るな —— ひっ!」

 米村は玄関口の方を見て小さな叫び声を上げた。


 グレーのジャージを着た4人が所内に入ってくる。さっき注意した不審者たちだ。


 「勝手に入るんじゃない。ここは警察署だぞ」


 米村の言葉が通じていないのか、カウンターを超えて中に入ってくる。

 先頭にいたフードをかぶった坊主頭が、吾郎の写真を突き出した。


 「ワタシはチョウといいます。ヘイ・ティエン・ダオ(黒天童)のリーダーです。

カレのイバショをイッテもらいます」


 たどたどしい日本語。威圧感は尋常ではなかった。

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