第15話

 —— 今、何時だろうか?


 秘密基地にいるせいか、知子は時間の感覚がつかめなくなっていた。

 結局、自分たちだけでどうにかできる問題ではないことも判っていた。

 モモだけでも吾郎のところに帰した方が安全ではないか?


 「モモ、お父さんの居るとこ、わかる?」

 「たぶん …… 」


 「お父さんのところに帰りたい?」

 「 …… わかんない」


 「わかんないはだめ。自分のことだから決めて!」

 「 …… ずっとここにいちゃだめ?」


 「それはだめ」

 「 …… チコちゃんもいっしょに帰る?」

 

 「それもムリ。私の母親はもういないから …… 」

 「チコちゃんはどこいくの?」


 「さあ、たぶん …… 施設とか」

 「しせつ?」


 「親のいない子が集まって暮らす場所。1人でお父さんのところに帰れる?」

 「 …… チコちゃんも一緒なら …… 」


 「だからだめだって! あいつと住むのは絶対にイヤなの!」

 知子はイライラして怒鳴った。


 —— 2人の間に沈黙が流れる。


 モモは下を向いたまま、独り言のようにつぶやいた。


 「パパ、怒ってるかな?」

 「さあね」


 「パパ、怒るとお風呂に閉じ込めるんだよ」

 「そう …… 」


 「ごはんも食べちゃいけないし、お洋服も着ちゃいけないの」

 「 …… 」


 「こわい顔でモモのこと、いっぱいたたいて、いっぱい —— 」


 「ごめん ……、もういい。話さなくて」

 知子は言葉を遮った。


 「モモも一緒にしせつに行ける?」

 彼女の訴えに知子はドキッとした。


 モモには感情がないと思っていた。 —— もし自分と同じ気持ちだったら …… ?


 「ねえ、お父さんと離れて暮らしたい?」

 モモは返事をしなかった。 


 「施設に行きたいなら方法はあるよ」

 知子の頭の中で考えがひらめいた。


 「あいつが警察につかまったら、あんたも施設にいけると思う」

 「…… どうするの?」


 「これ持って警察に行くの!」

 袋につまったラムネを、モモの顔に突きつけた。


 モモは訳が分からなかったが、知子の勢いに押される。


 「パパはどうなるの?」

 「まずは裁判をやって …… それからたぶん牢屋に入る」


 「そんなことしたら怒らない?」

 「すごい怒ると思う。けど牢屋に入ったら一生、会わないよ」


 『一生、会わない』 —— 知子は外が暗くなるのが待ち遠しくなっていた。

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