第14話

 —— 厄介なことになった 。


 アパート『カーサミア』の駐車場でサンドイッチを頬張りながら、吾郎と帰郷は同時に思った。


 黒天童との連絡役をしているヒロの携帯に届いた画像 —— ナイブスの幹部、岡本がさるぐつわをされ、シートに鎮座している。隣には黒天童のチョウが写っている。今日の日付で、バンの後部座席で撮られたものらしい。

 画像といっしょに送られてきた短い一文 ——『 最后期限ハ今晩 』


 「ちくしょう! いつパクられたんだよ!」

 ヒロがいらいらした口調で言った。


 「おそらく今日の午前中、自宅に踏み込まれたんだと思う」

 吾郎が淡々と答える。

 「今朝、俺の家にも踏み込んで来やがった。久美子がやられた」

 

 「おいおい、ちょっと待てよ! 何で先にそれを言わねぇんだよ!」

 ヒロが出っ歯をむき出しにして突っかかってくる。


 「久美子ちゃん、殺されたんかぃ?」

 帰郷は何かを考えるような顔で言った。


 「俺がヒロと会ってる時にやられた。続けて岡本の家に行ったんだろう。ついてなかったな」

 一同は岡本の家族のことを想像したが、どうにもならないことは判っていた。


 「みんなもう家には戻らんほうがいい」


 「でもよぅ、この隠れ家も見つるんじゃねぇか?」


 「俺たちの住所は電話帳にも載っているが、ここは不動産屋でも調べが付かないようになってる。1番安全だ」


 「さすがぁ、抜かりねぇ」

 帰郷は特に怯えた様子もなく言った。


 「帰郷、おまえの息子はまだ学校か?」


 「あぁうん …… お前の娘を学校で見たって奴がいたんで話を聞いてらぁ。残念ながら学校からは消えちまったみてぇだけどな」


 「あいつら何考えてんだ! 見つけ次第ぶっ殺してやる!」

 吾郎は怒りで顔が真っ赤になった。


 「これからどうすんよ?」


 吾郎は腕時計を見た。

 「今夜までに金とブツを揃えて、岡本と交換だな」


 「ちょっと待て! マジで言ってんのか?」

 ヒステリックな声でヒロが話に割って入った。

 「おまえのガキのせいで、俺らまで巻き添え食うなんて勘弁しろよ!」


 「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」


 「行方をくらませるんだよ。簡単だろう? ヒューッ、パチンだ!」

 南の方角を指しながらヒロが言った。


 「黒天童にはそれでいいが、登丸さんには何て説明すんだよ」


 「 …… ちくしょう!」

 ヒロはサンドイッチを地面に叩きつけた。


 「相手はたった4人だ。最悪、金とブツが見つからない場合、黒天童をぶっ潰す」

 吾郎は帰郷に向き直って言った。


 「俺たち3人でやれんのかぁ?」


 「いや、あいつらにやってもらう」

 五郎はカーサミヤを指さした。アパートには幹部以外のメンバー8人が待機している。彼らは今回の件に関しては何も知らされていない。


 「 …… うーん、大丈夫かぁ?」

 帰郷が初めて不安そうな顔をした。


 「頭数だけはそろってる。敵組織に狙われていると言えば、気合いくらいは入るだろう。しかし、まずは俺のガキを見つけ出し、昨夜、何があったかゲロさせる。うまくいけば金もブツも戻ってくる。その後、ガキは始末してやる」


 「よっしゃ決まりだな。手分けして探そうゃ。心当たりは?」

 帰郷はどことなく楽しんでいるようにも見えた。


 「学校から歩いて逃げられる距離なんて大したことねえ。俺は釜ノ川から東側を見て回る。帰郷は2号線から南を探してくれ。ヒロは学校より西を探してくれ」


 「北側は探さねぇのか?」


 「北にはゴミ投棄場しかないだろう。見つけたら車に乗せろ。痛めつけてもいい」


 「オーケー。夜までが勝負ってとこだなぁ」

 帰郷は昔から怖いもの知らずだ。学生時代は吾郎と敵対関係だった時もある。


 「俺は中国人なんて最初っから信用できなかったんだ!」

 ヒロはカーサミヤに向かって歩く吾郎と帰郷の背中に悪態をついた。

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