第8話

 ここは、相模国の大磯である。

 そして、東海道五十三次が、江戸日本橋から京の三条大橋までつながっている。東海道五十三次の大磯宿もここにある。

 喜一は、大磯宿で、宿を経営している。

 そして、妻は、ユキと言った。

 しかし、ここの宿には、いつも、江戸と上方を行き来する旅行客で一杯だが、いつも、宿も遅くなると、大抵、男は、女と逢瀬を楽しむ。

ーああ、旦那様、すごいです

ーだろう、ああ、すげえだろう

ーああ、こんな立派な身体を観ることが出来て、幸せでございます

 とか、ヒイヒイ言って、夜の営みを楽しんでいる。

 しかし、そうは、言っても、ここの宿には、大抵、ダンナに死に別れた人妻が、男の相手になっている。

 それで、男の性欲のはけぐちになっている。

 いや、十返舎一九『東海道中膝栗毛』にも、日坂の巫女が、婆さんだったとか言うが、ここの大磯宿も同じだったと言える。

 実は、この大磯宿辺りには、あまり、若い娘がおらず、そして、若い娘は、お金が沢山、もらえて、綺麗な宿が良いらしい。そして、ここの宿にやって来る女性の方も、もう、年配の女性ばかりで、正直、喜一は「もう、こんな宿は、飽きた」と思っていた。

ーあんな三十路を過ぎた婆さん、オレは嫌だ

 と思っていた。

 ある時、喜一の宿に

「ごめんください」

 と言って、凄く、色白な若い娘が、やってきた。

 旅したくはしている。

 それでも、一人だから、訝しげに喜一は、思ったが

「どうぞ」

 と言って、宿に案内した。

 そして、女房のユキに、食事を用意させて、そのまま、お風呂に入らせた。

ーパッシャーン

 と湯船の音がしたとき、喜一は、興奮をした。

 もう我慢できないと、喜一は思った。

 そして、若い娘の裸をしばらく見ていないと思った。

 そのまま、木陰から、五右衛門風呂を見ていて、若い娘の裸を見た。

ー何と、熟れた身体か

 と思った。

 そして、その時、喜一は、若い娘と目が合った。

 そして、若い娘が、微笑んだ瞬間

ーガン

 と頭が、何かで撃たれた瞬間だった。

「あの、僕ら、20歳を超えているので、サービスタイム、2時間でよろしくお願いいたします」

「え?」

「だから、料金は?」

 ここは、ラブホテルである。

 そして、喜一は、勝手に

「はい、4000円になります」

 とすんなり言った。

 そして、目の前に、女性の裸体の写真があった。

 喜一は、何のことか分からず、観ていた。

 だが、目の前にある女性の裸体の写真を観ていたら、急に、股間が熱くなった。

 ここは、どこだろうか?

 と思った。

 部屋の中を観ていたら

「大磯に来たら、ここのレジャーホテルで楽しみましょう」

 とハートのマークで書いている。

 大磯に来て、で、喜一は、自分がいたのは、大磯宿、は、分かったのだが、ここも、どうやら、大磯らしい、だけは、はっきりした。

 ここは、2023年8月の神奈川県の大磯である。

 そして、レジャーホテル、つまりは、ラブホテルにいる。

「社長」

「うん」

「今日は、早番でしょう」

 と声を掛けた女性がいた。

 よく見たら、喜一の妻のユキに似ている。

ー困った

 と喜一は、思った。

 自分は、夢に中にいるのか、とも思った。

「ここから、江戸日本橋まで行くのは、どうしたら良いのかね?」

「は?」

「だから、宿の客は、どうなっているのかね?」

「社長」

「うん」

「少し、頭がおかしくなったのかね?」

「いや、そうではないが」

「だって…」

「さっきから、変なことばかり言っているもん」

「例えば?」

「江戸日本橋なんてさぁ…」」

「江戸日本橋だよ」

「今の時代、江戸なんて言わないさ」

「何て言うの?」

「やだ、社長、小学生みたいなことを言って」

「しょうがくせい」

 喜一は、江戸時代の人間だから、単語は、平仮名で終わる。

「それは、今の時代、東京って、言いますって」

「とうきょう?」

「社長」

「はい」

「少し、疲れているのではないのですか?」

「そうかね?」

「だって、最近、血糖値あげて、糖尿病治療をしないといけなくなったって言っていたでしょう」

「???」

「社長、ストレスがあるようだから」

「???」

「たまには、散歩してきたらどうですか?」

「は?」

「今日は、私が、店番するしさ」

 と言った。

 そして、喜一は、現代の大磯の街を歩いた。

 外を歩くと、国道1号線があり、そして、砂浜がある。そこには、ビーチバレーの選手がいたり、スキューバダイビングをしたり、JR東海道線が、東京と小田原を走っている。

 そして、そのまま、喜一は、歩いていた。

 そのまま、歩いていたら、東海道五十三次の大磯宿の石碑を見つけた。

 その看板を観ていたら

ーオレが、生きていた時代は、<江戸時代>というのか

 と思った。

 そこに、一人の若い女性が来た。

「大磯町立図書館司書」なんてカードをかけていた。

「あのすみません」

「はい」

 この女性を観ていたら、宿で、五右衛門風呂に入っていた女性に似ている。

「東海道五十三次の大磯宿に興味がありますか?」

 と言った。

 もうドキドキして、もう、股間が熱くなった。

 訳が分からず

「はい

 と言って、抱きしめようとした瞬間

「お前さん」

ハアハア息をして、布団に寝ていた喜一がいた。

「お前さん」

「何だい?」

「木陰のところで、倒れていたって」

「へ?」

「それで、薬師の娘さんが、助けて、出て行った」

「あの娘は、昨日の朝、越前に帰って行ったさ」

 それから、五右衛門風呂へ除きに行くのは、喜一は、やめたそうだ。

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