第7話

 ここは、神奈川県平塚市である。

 2023年8月。

 エルニーニョ現象とやらで、この異常な暑さだが、ここで、一人の女性が、頑張っていた。

 マオは、ビーチバレーの選手だが、思うように上手く行かない。

 マオは、運動神経が抜群で、スタイルもよく、アイドルのゆうちゃみに似ていたから、会社の先輩に誘われ、ビーチバレーの選手になった。

 そして、平塚市の海辺に来て、今日は、試合だ。

 露出の激しい水着を着ているが、そもそも、胸もお尻も大きくて、本当のところ、恥ずかしいとも言える。

 先輩に言われたのだが、その前に、マオは失恋をしていた。

 3年近く付き合っていた彼氏にふられた。

 それで、本当は、自棄を起こしそうになって、今の選手団に入った。

 元々、会社も大きくて、何故か、こんなビーチバレーの選手になっているのだが、ここでも、少し、マオは思った。

ーこんな選手になりたくない

 と思った。

「江戸時代ならば、どうだったのか」

 とも思った。

 自分が、女ならば、お姫様になりたい

 なんて思った。

 マオは、体育会系の女子だが、ビーチバレーの選手になっていて、更に色黒だった。そして、御多分に漏れず、肉食女子だから、男子以上に、食欲はある。焼肉んあんて相当食べる。

 そして、周りから「そんなんじゃ、お嫁にいけない」と言われていた。

 本当は、お嫁にいけない

 と言われたら、傷つくのが、マオだが、顔に出さない。

 しかし、心では、いつも泣いていた。

「お姫様ならば、みんなに、大事にされるのではないか」と思っていた。

 そして、そんな事を、炎天下の中、考えていたら、頭がくらっとして、つい意識がなくなっていた。

ー自分は、熱中症になったのか

 とマオは思った。

ーあれれ

 とマオは、思った。

 今、何か、籠の中にいる。

 そして、マオは、重たい着物を着ている。

 さらに、自分の腕は真っ黒だったと思っているが、そうではない。

 白くなっている。

ー下にぃ、下にぃ

 なんて言っている。

 そうだ、ここは、夢の中にいるとマオは、すぐに悟った。

 ここで、マオは思った。

ー自分は、お姫様だから、何を言っても構わない

 と思った。

 ゲームの中の姫は、何を言っても良いはずだ、とも。

 ここで

「これ、お主」

「は、何でございましょう、マオ姫様?」

「お腹がすいたわい」

「は、だけど、もうすぐ大磯の宿でございます」

「ここは、どこじゃい?」

「平塚でございます」

 …そうか、ここは、平塚か。

 今のビーチバレーの舞台も、平塚か。

「そうじゃ」

「は?」

「籠を停めて、ここで、少し、外の空気を吸いたいわい」

「ダメでございます」

「何故じゃ?」

「今日の日暮れまでに、大磯に着かないといけないのですが」

 ここで、マオは困った。

 意外と、江戸時代も偉い人は苦労をすると思った。

 しかし、誰かが、こうも言った。

「少しばかり良いのではないか」

「そうじゃな」

「たまには、この平塚の海を見せても良いのではないか」

 とも家来は言っている。

 そして、マオは、着物姿で、海辺に出た。

 2023年の神奈川県平塚市は、確かに、ギャルが、海辺で、水着になって遊んでいるのだが、今の江戸時代の平塚市は、そうではない。ここは、東海道五十三次の平塚宿の近所である。

 街道の住民たちは、籠から出てきたマオを見て、逃げ出した。

「何故、みんな、逃げ出すのじゃ?」

「当たり前です。マオ姫は、殿の娘だからでございます」

 その時、マオは、寂しく思った。

 ビーチバレーの会場だと、男が、マオの胸やらお尻を観ている。

 セクハラで、本当は、凄く嫌だが、一方で、ここまで極端に、人がいないのも寂しいように思った。

「何か飲み物はないか?」

 とマオは言った。

「は」

 と家来は言った。

木でできた水筒を持ってきた。

「お~いお茶」は、ないのかと思った。

 少し、腰を掛けようとしたら

 ばあやらしき女中が

「お姫は、そんなことをしてはいけませぬ」

 とばしっとマオの尻を叩いた。

「何をする?」

「嫁入り前の娘が、それではいませぬ」

 とカンカンになって怒っている。

 マオは、今まで、両親に尻を叩かれたことはなかった。

 だから、何を言われているのか、分かった。

 しかし、尻を叩かれたのは、プライドを傷つけられた気がした。

「私」

「は?」

「ママにも叩かれたことがなかったのよ」

 と涙ぐんで言った。

 しかし、目の前の年配の女中は、単語が分からない。

「ママって、何でございます?マオ姫様?」

「ママってお母さんのことよ」

「お母さんって?」

「分かんないの?お母さんって」

 甲高い声を、マオは言った。

 そうだ、ここは、江戸時代の人間だから、こう言えば良いのだ。

「母上様よ」

「ああ、母上様ですね」

「そうよ」

「だけど、母上様は、心配のあまり、叩いたのですよ」

「そうではない、そうではない」

 とマオも、、分かんなくなってきた。

 そして、その内、マオは、「ああ、暑い」となって、目がくらっとしてきた。

 その時

「マオちゃん」

ーあれ?

「大丈夫?」

「うん」

「もうすぐ、食事だよ、マオちゃんの好きな焼肉弁当だよ」

 マオは、現代の日本が良いと思ったらしい。

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