第2話

 ここは、2023年7月の神奈川県川崎市である。

 川崎市を挟んで、多摩川が流れ、向こう岸には、東京都になっている。

 多摩川に架かる橋には、東京と川崎を結ぶ自動車が、多く行きかい、そして、向こうの橋には、京急電鉄や東海道線が、走っている。

 今日も、晴れている。

 いや、今年の暑さも、また異常だと言える。

 エルニーニョ現象かつ炭素排出量が多くなって、夏の気温は異常に上がっている。また、それにもまして、蝉の声も、どこか我々人間を脅迫しているかのように聞こえる。

「食べ処カフェソレイユ」の店員・カスミは、今日も、日長、退屈だから、スマホで、ファッションの記事を観ている。

 カスミは、自分が、毎日、毎日、トラック運転手やタクシー運転手に、飲食を提供している。

 ソレイユの社員になっているが、男の出会いは、ない。

 カスミは、女優の有村架純に似ている容姿だが、それでも、出会いはなく、また、たまにあったとしても、それは、彼氏持ちだったり、既婚者だったりする。

 いや、カスミも彼氏がいる。

 カスミのカレシは、脚本家だ。

 東京都心のケーブルテレビで、ドラマのシナリオを書いているのだが、収入は、少ない。

 そして、今度の9月に結婚するのだが、そんな彼氏は、「民放テレビのシナリオライターになる」とか言いながら、仕事はない。

 だから、殆ど、フリーターまたはニート、それか無職同然で、生活費は、殆ど、ない。

 彼氏は、あまりにも、収入がないから、たまに、ドラマとか映画のエキストラをしたり、または、YouTubeの方に出ているのだが、それも、「生理痛の薬のCM」だったり、「浣腸のCM」だったりして、身内に恥ずかしいあまり言えない。

 そして、カスミは、そんなソレイユの社員になっていたのだが、ー彼氏が馬鹿らしくて、つい、もう、自棄を起こして、お店にあるシャンパンを、あおってしまった。ーいや、本当は、カスミは、お酒を飲んだら、寝てしまうからーやめていけーだったのに。

 …

 あれれ

 いや、カスミは、どこか素っ頓狂な気持ちになっていた。

 どこかの時代のエキストラになっていたのか?

 また、イツキが、ドラマが好きだから、知らない間に、ここに連れてこさせられた丘とも思っていた。

 前に、高輪のラブホテルで、「時代劇プレイ」なんて言って、江戸時代の着物を着て、セックスをしたのだが、と思った。

 すると、

 下にぃ、下にぃ、

 と声が聞こえてきた。

「これ、お主」

 は?お主?いや、このおじいさん、まさに、江戸時代の格好をしているじゃん、とカスミは、思った。

 イツキは、私を、いきなり、テレビ局のドラマ現場へ連れてきたの?そうだ、若しかして、今のドラマの『どうする家康』に出ている松潤がいるのではないか。カスミは、そう思った。

 そして、カスミは、そのまま、大名行列が、通っていると気がついた。

 そうだ、土下座をしないといけない、土下座、土下座と思った。

 若しかして、北川景子さんも、ムロツヨシさんも、岡田准一さんも、出てくるのではないかとカスミは、ほくそ笑む感じだった。

 そして、カスミは、「そうだ、これが、イツキの仕事の理解につながる」なんて、考えていた。

 だが、ここは、江戸時代の東海道五十三次の川崎宿である。

 そして、目の前の宿も、どうやら、何か、埃臭い感じがする。

 ドラマの撮影現場らしいセットは、どこにあるのか?

 長い時間、大名行列が、通っていた。

 馬も、本当に、怖いし、そして、お侍さんも、怖い。

 イツキが、いつも言っていたドラマの監督は、どこにいるのか?

 メイクアップアーティストとかカメラとか道具の人は、どうなっているのか?

「これ、太郎、泣くんでない」

「やだぁ。お母さん、おら、お腹が減ったよ」

「ダメだよ、お侍さんが、これから、江戸から帰っていくんだから」

 お店は、どうも、子供を連れたお母さんと太郎という子供がいる。

「日の出屋さん」

「はい」

「いつも、すまないね」

「いや、今日は、講談師の牧太郎さんが、こっちまで来ているらしいよ」

「え、あの江戸で有名な講談師の?」

「今度の講談は、<さてさて家康さま>という講談らしいのじゃ」

「日の出屋さんも、頑張って、仕出しを作ってくださいね」

「ええ、今度、マグロ丼を出しますからね」

 え、とカスミは、思った。

 そうだ、カフェソレイユも、たまに、店長が、「今日は、マグロ丼を出します」とか訳の分からないことを言って、出している。

 だが、ここは、2023年の日本なのに、どうして、こんな事態になっているのか?日の出屋さんの大将が出てきた。

 あれ、どこか、ソレイユの店長に似ている。

ーいや、すまないね

 とか言っている。

 やがて、大名行列が、去って、そのまま、ちょんまげの格好で、牧太郎がやってきた。講談師の牧太郎は、どんな男か?

 そこに、牧太郎は、自分のカレシの売れない脚本家のイツキに似ている顔が。そして、そこから、「あら、牧太郎さん」と言っている。「やあ、すみれちゃん」と牧太郎は、言っている。すみれは、カスミと同じような顔をしている。

 そして、カスミは、急に、パニックになって、ばさっとその場で倒れた。

 …

 大丈夫ですか?

 大丈夫ですか?

「ここは、どこですか?」

「病院ですよ」

「私は、どうしていたのですか?」

「お店で倒れていたそうで」

「家族の方が、昨日から、仕事もしないで、看病していましたよ」

 看護師さんが、カスミに優しく言った。

 そこに、イツキは、薄っすら涙を浮かべて、カスミを観ていた。

「良かった」と。

 それから、暫くして、イツキとカスミは、同棲を始めたらしい。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る