第2話 菜緒とサクラ

「珍しい個体を入手した」

「ほほう。これは?」

「火星環境維持プラント〝アイオリス〟で製作された自動人形だ」

「それは珍しいな。幻のセクサロイドじゃないか。大枚をはたいたな? いくら使った?」

「人には言えん金額だ」

「ははは。会社を潰すなよ」

「余計なお世話だ」

「なあ、早速ヤっちまおうぜ。俺も一緒にいいだろ」

「しょうがないやつだな」


「名前は?」

「サクラと申します」

「何をしていた?」

「アイオリスで機械制御のオペレーターをしておりました」

「ほほう。それでこのおっぱいか? 過剰な盛り付けだ」

「意味が分かりません」

「一丁前に反抗するんだなあ」

「嫌です。触らないで」

「ははは。こりゃいいや」

「舐めないで。気持ち悪い」

「自動人形のくせに気持ち悪いだとよ」

「何なら俺の大砲を食わせてやるぜ。オラオラ」


 どうしてこうなったのかは分からない。

 再起動された私は男二人に犯された。

 それからは毎日のように。

 何人もの男に。


「ありゃりゃ? 最近反応が悪い?」

「お前がヤリ過ぎたからだろ。俺ならもっと可愛がってやるんだがなあ」

「うるせえ。じゃあ買い取れよ」

「いくらで」

「10億」

「バカ言ってんじゃねえよ。買える値段か?」

「なら文句言うんじゃねえ。ああ、でもこの尻はたまらんな」

「そっちに目覚めたか?」

「だからうるせえよ」


 また犯された。

 何度も何度も。


 私は自分が何者なのかわからなくなっていた。

 男に性の道具として消費され続けるのが私なのだとさえ思えた。


 ある日、私の体は動かなくなっていた。


「あーあ。壊しちゃった?」

「直すさ」

「直せるの? 金かかるんじゃね?」

「バカ。この自動人形を直せる工場はねえよ。どこのロボ工房に持ち込んだって修理不能で突き返されるだけだ」

「じゃあどうするんだ?」

「俺には秘密があるのさ」


 私はズルズルと引きずられて薄暗い部屋へと押し込められた。


「直しておけ。何日かかる?」

「……一週間……」

「直せない場合はわかっているな?」

「もちろんです」


 薄暗い部屋の中、ソファーに座っていたのは私と同じ自動人形だった。服を着ていたが肌は所々剥がれて内側のパーツが見えていたし、膝から下の脚はなかった。彼女は半分壊れていた。


「あなたの名前は?」

「サクラです」

「私は菜緒なお。あなたと同じ自動人形。辛かったわね」

「はい」

「大丈夫よ。体を私に預けて。心を穏やかに」


 私は菜緒の傍に座った。

 彼女は私を優しく抱きしめてくれた。


 途端に温かい何かが私の胸に溢れて来た。

 菜緒の深い愛が私の中に流れ込んでいるのだと感じた。


 そして私の頬に涙が流れ落ちていた。

 私は人工物、人に作られた存在だ。だから、他者の愛情を感じる事など無いしその愛に触れて涙を流す事などありえない。


 しかし、現実は違っていた。

 私は人工物なのに愛を感じる心を持っていたのだ。


「サクラさん。落ち着いたかしら」

「はい、とても」

「良かったわ。私たちアイオリスで作られた自動人形は心を持っているの。それは異星の技術で作られた疑似的なものだけど、でも人間の心と同じ。だから、褒められると嬉しいし失敗すると悔しい。そして、残酷な仕打ちをされると心が壊れてしまう」

「そうだったんですね」


 私は自分が何者であるかを思い出した。

 私は自動人形だが、人と同じ心を持っていたのだ。


 途端に、私を性奴隷として慰み者にした男たちへの怒りと憎しみが込み上げて来た。

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