第三話 どうしてこうなった

「勇者様!」


「魔物の群れが攻めてきています!」

「何とかしてください!」

「スキルの確認は済みましたか?」

「魔法も使ってください!」

「魔物を倒して!」


「勇者様!」

「勇者様!」

「勇者様!」




 おかしい。

 おかしいな。


 俺、ツグナは映画を見るために、マリーと一緒に教会を出発したはずだろ?


 数時間までは元・戦争孤児ということ以外は何の変哲もない青年だったはずだ。


 ……それなのに今は『勇者様』として村の人たちに担ぎ上げられている。


 ……何がどうなってこうなった?





 ~数時間前~


「えっと……この村の次にある町に映画はあるんだよな。早く行こう」


「はい。エルクロンですね」


「え? どこそれ?」


「ちょっと!? 目的地の町の名前で、結構栄えてる町なんですけど!?」


「悪い悪い。頑張って覚えるよ」


 地理とか興味0だし多分忘れるけど。


「覚えようとすらしてなかったんですかぁ!?」


「うん」


いやマジで。

地名覚えても役に立たんと思うから。


「もう! やっぱり私がしっかりしないといけませんね」


「優秀な奴が近くにいると助けられることばっかだな。」



などと他愛もない話で盛り上がっていると、村人の一人に声をかけられた。


「ちょっといいかしら?」


「え? はい」


「貴方……左手のその紋様って……?」


紋様……?

あぁ。この腕の傷跡か。 言われてみれば紋様に見えなくもない。


「この腕のやつですよね? これは小さい頃からあるもので、俺も詳しくはわかんないんです。ただ、たぶん傷跡だと思うんですけど」


「それも気になってはいたけど違うわ。手の甲のやつよ」


「手の甲?」


俺は左手の甲を確認する。

見ると俺の左手の甲には、金色に淡く光る紋様が浮き出ていたのだ。


……は?

なにこれおれしらない。

きのうはなかった。


はぁ!?

おかしいだろ!

なんでこんな訳わからん物が俺の手に浮き出てくるんだよぉぉぉ!!

ちょっと怖いんですけどぉぉぉ!!!


パニックになっている俺をよそに、話はどんどん進んでいく。


「私たちの間ではそれは『勇者の紋様』と呼ばれていて、勇者の血を継ぐ者にしか現れない、と語り継がれているの。」


「何!! 勇者様がついに現れたのか!?」


「儂らの救世主が!」


★NA★NI ★SO★ RE★


いや知らん。

マジ知らん

ほんと。

何にも知らんのだけど。


『勇者の紋様』? 『勇者の血』? 知らんがな。


そもそも俺も両親は戦争で死んだはずなんだろ?

そんな大層なもんじゃねぇだろ!


人も集まってきたし。

映画見に来ただけなのに!


「もしかしたら、貴方ならあれも……。とりあえず私についてきて!」


「いや俺たちは映画w「来て!」


ぐいっ。

見知らぬ人に引っ張られる。


抵抗しようとするが力が強くて抜け出せない!


「う~~~わ~~~~。力強い~~~。」


くそっ!

か、勝てない!


……あきらめよう。


俺が女性に力負けして潔く引きずられていく姿を、マリーはあっけにとられて見つめていた。









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