第8話 木下満と言う男 




「首なし死体事件の速報です。日本中を震撼させている事件ですが、事件発生から彼是1ヶ月が経とうとしています。そして…誠に残念な事に昨日の深夜、また…新たに首なし死体が、愛知県岡崎市のモーテル「シャチ」の一室で発見されました。それでは詳しい事件の経緯を追って行きたいと思います。最近愛知県で起きている首なし死体ですが、最初の事件は廃墟となって居た民家から発見された豊明市の43歳の男性Tさん、2人目の被害者はS高校の使われていない倉庫から発見された、名古屋市瑞穂区の36歳男性Kさん、そして…昨日深夜またしても愛知県岡崎市のモーテル「シャチ」の一室で新たに、首なし死体が発見されました。この猟奇的殺害事件首なし死体ですが、首切断には鋭利な刃物ノコギリのようなもので切断された事がハッキリと、、、、、、、、、、、、、、、、」



 それでは、今度はこの事件速報の3人目の被害者は一体どのような人物だったのか?深く掘り下げてみよう。


「また…新たに首なし死体が、愛知県岡崎市のモーテル「シャチ」の一室で発見されました」

 そう、このように報道されていた男性は深夜岡崎市のモーテル「シャチ」の一室で首なし死体で発見されたのだが、生首を持ち帰る行動はやはり怨恨による犯行とみるのが正解なのだろうが、それという事はやはり恋愛関係にあったが、裏切られたが愛するがゆえに自分だけのものにしておきたい、本人の姿をいつも側に置いて観察したい、恍惚の愛のなせる業なのか?


 それでは殺害された人物像に迫ってみよう。50代中盤の男は何とも、運の悪い事に、たまたま凛音が働いていたレンタル彼女「ローズ」に会員登録していた1人だった。確かに流星が恐怖で凍り付いた2面性のある女の子だったので犯行も十分考えられる。だが……50代中盤のその男は、女性には一切興味が無いゲイだった。


 エエエエエエ————ッ!どういう事?だって恋人代行サ―ビス「ローズ」は凛音が登録しているレンタル彼女「ローズ」なので、ゲイの人はレンタル彼女には興味が無い筈だが?


 それが……この恋人代行サ―ビス「ローズ」はレンタル彼氏・彼女も併用して行っている両方満足して頂ける、お客様のニーズをできるだけ多く応える為のサービスだった。


 この男木下満は現在56歳で独身貴族を謳歌していた。過去には結婚していたが、ゲイである事実が妻にバレて離婚となった。子供は1人いたが、妻に引き取られて行った。


 IT企業の社長さんなので金回りが良い。だから好き勝手に独身貴族を謳歌していたようだが、あの夜恋人代行サ―ビスローズの「レンタル彼女」ではなく「レンタル彼氏」とモーテルシャチに入った可能性も十分考えられる。現在ローズの「レンタル彼氏」登録者を片っ端から洗っている。


 どんな事情が有ったのか?その事情は今のところは藪の中だ。


    


    ***


 今日もいぶし銀の異名を持つ銀さんこと長瀬と新米刑事田淵は、事件解決に向けて現場に急行している。


「おお……その前に腹ごしらえでもしよまい。どえりゃあ—うみゃあ—エビふりゃあ—でも食おまい」


「うわ—嬉しい。御馳走さまです」

 早速定食屋に到着した2人はエビフライ定食を注文した。


「うみゃあ—なぁ。このエビふりゃあ—どえりゃ—うまいな—。満足!満足!ワッハッハッハ!嗚呼……チョット食い過ぎた。だで…トイレして来るで……」


「ハイ!」

 随分時間が掛かっている。


(どうしたのだろう?)すると慌てた様子でトイレから出て来た銀さん。


「えりゃ—こっちゃトイレの水が流れ―てけせん」


「嗚呼……詰まらせたって事ですね?」


「そんな恥ずかしい事…声に、でゃ—て……言ゃ—すな。お客様が聞いとらっせるし……」


「僕が店員さんに言ってきます」


「サンキュー。うみゃ—もんでついつい……欲こいて……食い過ぎたもんでワッハッハ!」こんな、とんだ災難に見舞われた2人だったが、無事現場に到着した。




  ***


「全くもって犯人の目星が付きませんね?困った!困った!」


「そんなこと……わから—すか?いらんこと言っとらんと……廃墟に行こみゃあ—」


「本当ですね。現場100回って言いますもんね」


「事件現場にこそ解決への糸口が隠されているのであり、100回訪ねてでも慎重に調査すべきであるということだがや—」


「銀さんこの3人目に殺害された男、木下満と言う男はゲイだったらしいが、殺害されたあの夜は誰とモーテル「シャチ」に入ったのですかね?どうも車の所有者の妻が言うには夫ポールはお金が無いので、友人Aから車を安く譲り受けたらしいのですが、Aの友人Bがポ-ルの友達Aに車の廃車を頼んだのだが、何を思ったのか、その車をポールに譲ったらしいのです。すると暫くして、最初の持ち主Bから連絡が入り、廃車になっている車なのに自動車税を取られた。事故した時に責任を負わされるのが嫌なので、できるだけ早く解決させたいと言われたので、車を安く売ってくれた友人Aに怒って車を返し、お金を返して貰ったのです。元々廃車同然の車ですから故障も多かったので……だから、その後はどうなったのか分かりません。そして…ポールが車を戻した相手Aの話はこうです『ポールが車を返しに来たのですが、車を廃車処分しようと運転して中古車販売店に向かったのですが、動かなくなったのです。その時にアルバイトのコンビニから、アルバイト学生が風邪でどうしても人手が足りないと言うので、焦ってたまたま人通りの少ない場所の廃墟が有ったので、押してそこに駐車して置いたのです。ここだったら警察にもバレないと思って……そして…アルバイトが終わって帰ってみたら車が無かったのです』アルバイトから廃墟に帰って来るまでに掛かった時間が彼是9時間ぐらい経っていたらしいですが、その間に誰かが、乗って行ってしまったという事ですよね。でもこんな町はずれの猫の子一匹いないような所では、防犯カメラもありませんし……本当に困りました」



 こうして…2人は車を奪った犯人の特定を急いだ。見えてこない犯人像、一体どんな目的があって猟奇的殺人を繰り返すのか?



(いつも感じるこの違和感……そして…自分自身がつくづくイヤになり罪悪感を抱き、うつ状態を悪化させている私。どうして……こんな事になったのか?時々誰にも言えなくて自分で抱えきれなくて……いっその事、死んだらどんなに楽か?ああああアアアアアア……苦しい クルシイ)


    ***


 一方の小説研究サ-クルの、女子黒山幽香とサッカ-部所属のイケメン立花流星の2人は、この事件に興味津々だったが、その後この一連の首なし死体事件に進展は有ったのか?


 こうして2人は次の日曜日、犯人が購入したと思われる金物店に向かった。その中田金物店は岡崎市の商店街の一角にあった。だが、その時一瞬あの美しい少女凛音らしき女の子が、日曜日で賑わう商店街の雑踏の中を通り過ぎた気がした。


「幽香ちゃん俺この事件に関与しているか分からないが、チョット怪しい女の子見掛けたんだ。僕、跡を追って見るね?」流星は慌てて凛音の後を追った。


(まさか…俺の見間違いに決まっている?絶対にそんな筈が無い。間違いであって欲しい。でも……そっくりだったっけど。あの……儚げな……それこそ支えてあげないと壊れてしまいそうな……美しい少女。だが……その対極にまるで狂人のような狂った眼差し。あの日会った名も知らない美少女にもう一度逢いたい。彼女がこんな恐ろしい事件に関わっているなんて絶対に無い。有る筈がない)そう思おうと思えば思う程心の中の何処かで、違う真実が炙り出される事への不安が増幅するのであった。


 一瞬で恋に落ちてしまった流星だったが、こんなにあの少女の事が片時も忘れることが出来ないのに、余りにも美しすぎるその対極にある狂気に、これ以上足を突っ込んで自分の憧れの少女を、地獄に付き落とす羽目になるかも知れない不安で一杯で、もう追及を辞めたくなっている。


 流星の趣味であるミステリーを暴く事への一抹の不安は、一瞬にして魅了された恋焦がれた名も知らぬ美少女の、そこはかとなく暗い闇に潜む狂った瞳に隠されているのか?


 猟奇的殺人鬼首なし死体事件の犯人は、一体誰なのか?



 ※名古屋弁一覧

 ・やっとかめ:久しぶり       

 ・どえりゃー:とても        

 ・~だがね:~だね         

 ・にゃー:ない           

 ・わから—すか?:分かるか?

 ・食おまい:食べよう        

 ・どえりゃ:沢山

 ・だで:だから

 ・でゃ—て:だして

 ・言ゃ—すな:言わないでください。

 ・いらんこと:余計な事

 ・流れ―てけせん:流れない

 ・だだくさな:大雑把な。だらしない


「ようこそいりゃ~た。ゆっくりしてってちょ♪」:「ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくりお寛ぎください。」
















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