第9話 喧嘩
岡崎市のモーテル「シャチ」で事件のあったあの日理生の友達朝陽は、誰かに追われて逃げていた。それも夜の7時頃だ。そこで廃墟に逃げ込んだ。その時に止められてあった車を発見した。朝陽は藁をも掴む思いでその車に隠れようと思った。
車は当然施錠されているものだろうと思ったが、それでも……こんな所に止めてある車だから使い古しの捨てられた車かも知れないと思った朝陽は、試しにドアを開けて見た。古い車だから集中ドアロック(運転席側ドアのロック操作だけで、他のドアのロックも連動する機能で、センタードアロックとも呼ばれる)ではないかもしれないと思ったので四方のドアを開けて見た。やはり四方のドアは開かなかった。だが、ひょっとして後ろのトランクは開くかも知れない。そう思った朝陽は試しにトランクを開けて見た。するとトランクが開いた。
(そうだこの車に隠れよう?)そして…車の中に侵入した。車の中に隠れていたが、誰かの声が遠巻きに聞こえて来た。これはひょっとして見付かるかもしれない。
当然キ-は付いていない。それでも…車のボックスにキーが入っているかも知れないと思い、捜してみた。すると予備のキ-が見付かった。あわてた朝陽はキ-をさしてエンジンを掛けた。するとラッキーな事に車は動いた。
喜んでいたのも束の間、追われていた相手を何とか巻くことが出来た矢先に、車が止まってしまった。もたもたしていると目の前に野郎達が現れた。咄嗟に車を乗り捨て林道脇の森の中に隠れた朝陽。するとその野郎達が朝陽の乗り捨てた車に乗ったまま車で通り過ぎた。
全く掴めない朝陽の行動。朝陽は誰に追われていたのか?
実は朝陽には、この物語の重要人物理生という大親友がいるのだが、理生ともう1人恵麻という女の子3人組は大の仲良しだった。最初は高校一年生の時に同じクラスだった朝陽と理生が大親友となって、学校でも家での宿題も自主勉も一緒という、寝る時以外いつも一緒と言うほど仲が良かった。そして…2年生から恵麻がいつの間にか仲間に加わっていた。
それと言うのも、朝陽が恵麻にいつとはなしに話しかけ、接近していたからに他ならない。そんな時にいつも一緒に帰る理生がたまたまいなかったので、これ幸いに学校の帰りに朝陽が恵麻に告白した。
「恵麻ちゃん……その~恵麻ちゃん……僕……僕……最初恵麻ちゃんを見た時から恵麻ちゃんの事……だから…付き合って下さい」
「私達3人、いつも一緒の友達じゃん?」
「……そうじゃないんだよ。男の子と女の子としてだよ。今は只のダチじゃん。分かった?」
「分かったけど……?」
こんな関係が続いたある日、3人いつも一緒に帰る校舎の門の前で理生が時間になっても来ない2人に苛立ちを感じ、教室に様子を見に行った。
だが……教室はもぬけの殻。不思議に思い今度はあの2人が大好きな場所で、裏手にあるうさぎや鶏がいる飼育小屋に行ってみた。
(あれ~?今人影が見えた気がしたが?)そう思いうさぎ小屋に飛び込もうとした瞬間奥の方で朝陽と恵麻の影が重なった。薄暗くてはっきりは見えないが、場所を少し移動してみた。
(アッ!やっぱり朝陽と恵麻だ!……何々……?俺様に隠れて真昼間からこんな所で……抜け抜けとキスなんかしやがって、許せネ—!なんだよ—抜け駆けかよ。全く酷い話、俺だけ仲間はじきかよ。俺様を舐めんじゃネエ—!)
喧嘩の発端は朝陽と恵麻が急接近した事によって、3人の関係は壊れてしまった。こうして…3人の関係は改善されるどころか、悪化の一途を辿って行った。
理生はイケメンでクールなクラスを裏で仕切っている影のリ-ダ-的存在、一方の朝陽は秀才で皆の信頼を一身に集めている優等生タイプ。
「オイ!皆朝陽の暴挙を許せるか?クラスのアイドル的存在恵麻を、それも俺とあいつら3人は大親友だった訳だ。それを……よくも抜け抜けと真昼間から。只じゃ済ませねえからな—!オイ!お前ら!朝陽をぼこぼこにして痛い目に遭わせてやろうじゃないか!」
「アイヨ!ガッテン承知の助だって-ノ!」
「アイツにばっかり良い思いさせてたまるものか!」
「コテンパンにヤッツケテやろうじゃないか!面白くなって来たウッフッフッフ!」
こうして…あの日朝陽は野郎達に追い掛け回されていた。だが、まだ17歳の少年が無免許運転、更には…他人の車を乗り回すなど考えられない話。良家の子女が大多数の、この由緒正しい高校でこのような暴挙が許されるのだろうか?
そうなのだが……この生徒たちは学校でもえりすぐりの優等生。そんなヘマはしない。先生方からの信頼も厚い生徒達。ましてや使われていない廃墟に乗り捨ててあった車で、田舎道を運転しても夜は猫の子一匹いないような場所、頭脳犯の少年達が、尻尾を出すわけが無い。
という事は理生の友達の中に犯人がいる事も十分に考えられる。中には19歳の少年もいる。それは両親の強い意志で2浪してこの高校に入った生徒もいる。だから無免許とは限らない。朝陽は咄嗟の事で暴走したので無免許だったが。
そして…あの夜理生は恋人代行サ―ビス「ローズ」のお客様と会う事になっていた。実は…理生がこの「レンタル彼氏」に登録したのは、野郎達の中の1人からの紹介だった。だから…この中の誰かが、あの夜木下満と会っていた可能性がある。そして…理生にもその可能性はある。
あるホテルの一室での事。
「ヤメテクダサイ!……僕は……僕はそんな事出来ません」
「こんな所までやって来て、いまさら何を言っているんだ!」
***
あの日は朝陽を成敗出来なかった理生達が、引き下がるわけが無い。
「よくも俺達に恥をかかせてくれたな?皆今度こそは絶対に朝陽をコテンパンにヤッツケテやろうじゃ—ないか!そこでだ……俺らの通学路に河原が有ったじゃないか、あの河原に誘い込みフッフッフ❕痛い目に遭わせてやろうじゃないか!皆分かったな!」
「今日決行するのか?」
「この前はもうチョットの所でしくじったが……今度こそ……コテンパンに……ウッシッシイ!」
「オウ!今日はコロナ対策の臨時職員会議が有るので、授業が早く終わる。だから…今日決行しよう」
***
河原に向かった4人組。
「オイ! 朝陽がチャリでもう直ぐ通るぞ!皆一斉に道を塞ごう!」
その時だ。朝陽の自転車が理生たちの前を横切ろうとした瞬間、4人の生徒が怒涛を組んで朝陽の行く手を塞いだ。
「これは一体何の真似だよ?」
「フッフッフ……お前の……お前の……裏切りが許せネ—!俺達は1年生の時からどんな事も包み隠さず話し合って来た。それなのに……それなのに……なんだよ!こそこそと隠れて恵麻ちゃんと乳繰り合いやがって……なぁお前ら!そうだろう」
「本当だ!噂ではお前がどうも……しつこくて……それで恵麻ちゃんも……強引にキスされて困っている。そんな噂が漏れ聞こえて来てんだ。エエお前分かってるのか?このスケコマシ野郎が‼許せネ—!」
「何言っているんだよ?両者同意の元だよ。恋愛は自由だろう……」
「お前は本当にバカだな!お前に無理矢理キスされた張本人恵麻さまが、そう言っておられるのだよ。よくも……我がクラスのマドンナを汚してくれたな、許せネ—!」
「オイ!皆こいつを河原に連れて行け!……フッフッフ!ボコボコにしてやろうじゃないか!ヤレ————————ッ!」
野郎達は、がれきや棒で朝陽を一方的に殴り付けている。
ボコン//〷バカン〷//グシャン〷//∥
「ヤッヤメロ❕止めてクレ————————ッ!」
朝陽はコテンパンにやっつけられて、その場に倒れ込んでいる。しかし……恵麻は何故、朝陽に不利になる事を言ったのだろうか?少なくとも同意の元付き合い出したのも事実だし、同意の元キスをしたのに………。
「フフフ!チョット可哀想な事をしたけど……だって……私だって……クラスで不利な状況に追い込まれたくないでしょう?それから……私……朝陽より……クールで知的でイケメンな理生がタイプだったの。だから……もう……私に近付かないで」
恵麻も恐ろしい女の子、この後どうなって行くのか?
***
「あの時はビックリしたわ!まさか…モーテルに入るなんて、あれだけ約束したじゃないの。最初の約束、そういう行為絶対に無しって決めていたのに……もし…したいのだったら他の人にして頂戴って、あれだけ言って置いたのに……それから私の秘密をバラすと言って脅して……エッチさせたら黙っていてやるって……私がそんな行為出来る筈が無いじゃないの……私は同性愛者なの……だから……タイプの人じゃないと無理……恨んでやる!フフフそれでも…スッキリした!嗚呼一度殺すとクセになって……もっともっと……ああアアアアアア……モットモット……フッフッフ!」
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