第5話 被害者T
「首なし死体事件の速報です。日本中を震撼させている事件ですが、事件発生から彼是1ヶ月が経とうとしています。そして…誠に残念な事に昨日の深夜、また…新たに首なし死体が、愛知県岡崎市のモーテル「シャチ」の一室で発見されました。それでは詳しい事件の経緯を追って行きたいと思います。最近愛知県で起きている首なし死体ですが、最初の事件は廃墟となって居た民家から発見された豊明市の43歳の男性Tさん、2人目の被害者はS高校の使われていない倉庫から発見された、名古屋市瑞穂区の36歳男性Kさん、そして…昨日深夜またしても愛知県岡崎市のモーテル「シャチ」の一室で新たに、首なし死体が発見されました。この猟奇的殺害事件首なし死体ですが、首切断には鋭利な刃物ノコギリのようなもので切断された事がハッキリと分かってきました。、、、、、、、、、、、、、」
事件のあらましが、大々的に報道されて彼是一か月が経った。それでは最初に起きた首なし死体事件を深く掘り下げて行こう。
最初の事件は廃墟となって居た民家から発見された豊明市の43歳の男性Tさんだが、この男性には妻と子供がいるのだが、高校2年生の息子と中学3年生の娘2人の子供の事では、些細な問題を抱えていた。
それは……息子の友達付き合いを両親が反対していたのだが、娘の事でも成績が芳しくなく、志望校に合格できそうにないという子供に関する諸々の問題が有った。
そして…その廃墟となっていた民家から犯人のものなのか、何と……イヤリングが見付かった。このイヤリングは重要な手掛かりになるが、犯人の物なのかはまだ分かっていないが、重要な物的証拠のひとつだ。
「オイ現場に落ちとった。イヤリングだが……どえりゃあ、ちいさゃあイヤリングだで……まあいかん わやだがや~指紋も取りゃあせん。それでも……これで、犯人は女という事がハッキリ分かったがや~ まぁそれでも…念には念をで、疑ってかかる必要はあるが?」
「それでも…イヤリングも、何かの証拠になるかも知れません。焦らずに行きましょう」
「ま~あかん聞き込みに、早う行こみゃ~」
「それでも…高校2年生の息子の友達付き合いを、Tさん夫婦が反対していたってどういう事でしょうね?余程問題のある友達だったのですかね?」
「それがよ~おうじょうこいた。Tさんの息子がどうもよ~ナヨナヨしとるらしい。ほんでよ~化粧品が見つかったらしい。『付き合っている友達に影響された』と言って反対しとるらしい。わやだがや」
「でも……それって友達のせいじゃないじゃないですか。息子さんの性格ですから、何か他に有るに決まっています」
「そうだがや、友達付き合いを反対されている友達に聞こまい」
こうして…Tの息子の友達を探し当て、息子の友達関係を聞いて見る事にした。
『ピンポン』 『ピンポン』
「奥さんですか?Tさんの息子さんのお友達が謙太君だと聞いたもので……Tさんもお気の毒な事でした。ほんでよ~首なし死体事件を解決する為にも是非とも、息子さんの話も聞きとうて……それでチョット息子さんお願いします」
「アッハイ!分かりました。ケンタ!謙太!」すると謙太君が2階から降りてきた。
「嗚呼……謙太君ですか?友達の勝君の事だけど……殺害されたTさんが君との交際を快く思っていなかったらしいが、何故だい?」
「…………」
「どうしたんだい?何か……話せない事情でもあるのかい?」
「……それが……それが……実は…マサル……変ていうか?皆からオカマって呼ばれているのです。僕は小学校からの付き合いだからマサルの味方なのですが、そんな事をしていたら僕にもとばっちりが来まして……それで……僕の母親がマサル君と付き合うの『止めなさい』ってうるさかったのです。そんな事も有って最近は付き合いが遠のいていました」
「って事はTさん夫婦が反対しているんじゃなくて、謙太君の両親が反対していたって事?益々分らなくなってきましたね?」
「まぁおうじょうこいた。ハア!」
こうして…おおよその話が聞けたので、退散することにした。
***
「長瀬刑事!Tさんの子供で、妹さんの事も調べる必要ありますか?」
「嗚呼……そりゃあどんな些細な事も調べる必要がある。亡くなったTさんの家族を当ろう。どえりゃあこった!」
そして車は一路亡くなったTさんの家に向かった。
まだ悲しみ冷めやらぬ、ひっそりとしたこんな時に不躾とは思うが、憎き犯人を捕まえる為には、一刻の猶予もない。
『ピンポン』 『ピンポン』
すると亡くなったTの妻が家のドアを開けてくれた。
「警察の者です。この度は何とも不幸な事で……憎き犯人を一刻も早く捕まえる為にも、犯人捜しのためにも協力お願いします。ところで勝君の事ですが、友達関係で両親が反対成されていたのは本当ですか?」
「ウウウ(´;ω;`)ウゥゥワァ~~~ン😭ワァ~~~ン😭それが……それが……どうも……「LGBT」という言葉をご存知ですか?実は…県内でも有数の進学校に通っている勝ですが、うちの息子は子供の頃から少しなよなよした子供だったのですが、ある日……類は友を呼ぶとはよく言ったもので、どうも……同級生の子供の中に「LGBT」の生徒が交じっていたのです。ウウウウッウゥゥ(ノД`)シクシクそして…そして…似た者同士仲良くしていたのです。だが……うちの子が謙太君にウウウウッその秘密を打ち明けたらしいのです。それで…それで…バラされた相手が暴れ出したのです」
「どえりゃあ話だがや?じゃあ……バラされて怒っている子は誰ですか?」
「それが……私も分らないのです。息子も絶対口を割らないと思います。ウウウウッウゥゥ(ノД`)シクシクそれは……仕返しが怖いからです。ウウウウッ」
「勝君に会わせて下さい。僕らが全面的に勝君を守りますからお願いです」
その時だ。玄関のドアがバタンと閉まり、勢いよく駆け出して行く足音が聞こえた。警察の余りの重々しい雰囲気に事件の真相を追及されると思った勝君は、きっと自分にも捜査の手が及ぶと思い逃げ出したのだった。
「やはり……息子は仕返しを恐れています。ウゥゥ(ノД`)シクシクですから今日の所はウウウッどうか……どうかお引き取り下さい」
「まぁこんな状態じゃどうにもなりゃあせんで、じゃあまた顔を出します」
「嗚呼……最後に妹さんはTさんの事件に何か……関わりはありますか?」
「娘は全くの無関係です」
※「LGBT」:“L”=レズビアン(女性同性愛者)、“G”=ゲイ(男性同性愛者)、“B”=バイセクシュアル(両性愛者)、“T”=トランスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別にとらわれない性別のあり方を持つ人)など、性的少数者の総称。
人間社会は、「男性は女性を、女性は男性を愛するのが普通であり、それ以外は異常でおかしい。人は出生時に割り当てられた性別らしく生きて行くのが正しい」といった固定観念や先入観を持ち、LGBT当事者に対し、偏見や差別を持つ人が少なくない。
人間それぞれの個性と捕らえずに、常に、そうした周囲からの偏見や差別的言動にさらされ、傷つき悩んでいる。また、自らがLGBTであることを明かし理解してもらいたいと切に思っているが、周囲からの偏見や差別的言動におびえ、だれにも悩みを打ち明けることができず苦しんでいるケースが多々ある。
また、恋愛・性愛の対象が異性以外の人に向かう人やいずれにも向かわない人への理解は、改善される事が極めて少ない。性的指向は本人の意思で簡単に変えたり選んだりできないにもかかわらず、特別視し、差別的な取扱いをする事例などが後を絶たない。本人たちにはどうにも出来ない事なのに、追い詰められて精神的に不安定になるというケースも多々ある。
※名古屋弁一覧
・わやだがや~:ダメ、台無し
・行こみゃ~:行こう
・おうじょうこいた:困る、苦労する
・なりゃあせんで:なりませんから
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