第22話 星占いのお婆さん

クリスティーネが、一二歳の誕生日のことです。ヨハナは、クリスティーネを連れて市場で買い物をすませた後、いつも帰る道とは違う裏通りに入りました。

クリスティーネが、不思議そうに

「お母さん、まだ、今日の買い物があるの。ここは、来たことがないところね」

と聞くと、ヨハナは、

「そうね、これは、お父さんには、内緒よ」

と言って、古びた建物の二階に入っていきました。

 「星占い」と書かれたドアを開けると、窓には覆いがかけられ、灯りもわずかで、部屋の中は、薄暗く陰気な感じがします。

クリスティーネは、お母さんが、いつになく真剣な表情になったので、少し不安になりました。

 奥から、おとぎ話に出てくる魔法使いのようなあ婆さんが、出てきて、

「星占いを所望かな、それなら、占ってもらいたい人の名前と生年月日を書いておくれ」

と言って、羊皮紙のような紙を渡しました。

 あ婆さんは、ヨハナが、子供を連れているのを見て

「もし子供の将来を占ってほしいのなら、本人とだけ向き合わなければ、正しい占いはできないよ」

と告げたとき、ヨハナは、一瞬、凍り付いたような表情を浮かべましたが、子供のためならと納得しました。

「別に取って食おうというわけじゃない。時間もそれほどかからない。いやなら、他をあたってくれ」

と言われて、ヨハナは覚悟を決めました。

 ヨハナは、怖そうにしているクリスティーネの背中を押して、

「お母さんは、ここで待っているから、少しの間だけよ」

と言いました。

クリスティーネの名前と生年月日が記された紙をもって、あ婆さんは、クリスティーネと次の部屋に入りました。

 そこで、何を言っているのかは聞こえませんが、あ婆さんがクリスティーネにたずねている声と、それに答えている声が聞こえます。

どのくらいヨハナは、待ったでしょうか。クリスティーネが、出てきました。入ったときの怯えの表情はなくなり、元気も出ているようです。

 ヨハナが、占いの結果をお婆さんにたずねると、

「この子は、心のきれいな子だね。大人になって、北からやってきた高貴な男性と結婚するだろう」

うれしくなったヨハナは、二倍の料金を支払うと、あ婆さんは、ヨハナを別室に入れ、

「ただし、この子の父の影が浮かんだが、このままでは、よくない。悪と戦っているのだが、その悪は、自分の中にあるんだよ。命取りにならなければいいが」

と、不吉な予言をしました。

 ヨハナは、クリスティーネを連れ、早々に家に帰りました。帰る途中、ヨハナの脳裏には、先ほどのあ婆さんの言葉が、何度も浮かんでいました。

 自分の中の悪と戦う。その意味は、分かりますが、誰でも自分の心の中には、悪の部分があり、時には、その誘惑に勝てず、良くないことをしてしまうことは、あります。

 しかし、その戦いで、命を失いかねないほどの悪とは、何だろう。いくら考えてもわかりません。

家に帰り、ドアを開ける前に、ヨハナは、もう一度、

「クリスティーネに、今日、あの星占いのお婆さんのところに行ったことは、お父さんには内緒よ」

と言いました。クリスティーネも、にっこり、うなづきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る