第21話 リンゴの思い出

 ホルツとヨハナが結婚して、何年もたったある年の秋のことです。近くの村々からリンゴを山ほどつんだ荷車を引いてリンゴ売りが、やってきました。毎年、なじみとなっているリンゴ売りの村人です。

 青いリンゴですが、熟成しており、そのまま食べることができますが、リンゴパイやジャムにすると、とびきり美味しくなります。町の人は、リンゴを大量に買いますが、リンゴを食べるためではなく、実はリンゴ酒を作るためです。

 子どもたちが、絞り器の中にリンゴを入れて棒を回すと、リンゴがつぶされて汁が出てきます。それを桶に受けて、涼しいところにおけば良いのです。子どもたちは、面白がって、いくらでもリンゴを搾ります。

 そうして、それそれの家が、作ったリンゴ酒を振る舞います。秋の一時期、町にはリンゴ酒の香りが漂います。

 ホルツとヨハナには、リンゴに対して、複雑な思いがありました。ホルツの親指がなくなったのは、リンゴ園でのことです。二人の結婚式は、秋の遅いころで出されたごちそうは、リンゴを料理した簡素なものでした。その日を思い出して、結婚記念日の夕食には、ヨハナは、必ずリンゴの料理とリンゴ酒を出しました。

 リンゴの料理と言えば、ホルツのお母さんも、ヨハナのお母さんもリンゴの料理が得意でした。二人とも、すでに亡くなっていましたが、ホルツとヨハナは、暖炉のそばで、二人が亡くなった日は、お母さんのことを思い出して静かに暮らしました。

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