第18話 ホルツの変貌
生まれた子は、クリスティーネと名付けられ、何一つ不自由なく育てられましたが、物心がつくと、自分の右手の親指がないことに気が付きました。
「お父さん、お母さん、どうして、私の右手の親指がないの。私がいけない子だから、神様が、取ってしまったの」
ホルツは、その問に答えることができず、ヨハナは、申し訳なさで、胸がいっぱいになりました。
それから、ホルツは、仕事場に閉じこもるようになり、真夜中になると、一人でつぶやき始めたのです。不審に思った、ヨハナがドアの外で聞き耳をたてると、ホルツが、何か大きな決心をしたことがわかりました。
不思議な行いが始まりました。ホルツは、狂ったように働き始めたのです。しかし、働いて、自分のために、お金を貯めるのではありません。働いて得たお金を教会に寄付をしたり、貧しい人たちに施すのです。
町のお金持ちなら、だれでも、多少の施しはしていました。だが、ホルツの施しの金額の多さとその回数には、だれもが、首をひねりました。
はじめは、驚いていたヨハナも、そんなホルツの行いを、どうしても娘を治してもらいたいと神様に願うためのものと考え、自分もそんなホルツに救われたことから、ホルツのすることに口をはさみませんでした。
ホルツは、朝早くから夜遅くまで働き、他の職人が嫌がる仕事も進んでやりました。
「ホルツは、聖人だ。職人の聖人だ」
町の者が、ほめたたえました。
はたして、ホルツは、本当の聖人なのか、ある日、どうしても自分の心を抑えきれなくなったヨハナが、
「それほど働かなくとも、いいのではないのですか。それでは体をこわしてしまいます」
と意見しても、ホルツは、休みませんでした。思い切って、ヨハナが言いました。
「ホルツ、私が、あのような子供を産んだことで、あなたは、ご自分を責めているのですか。それは、私の責任です。私への神様の罰でしょう」
ヨハナは、泣きそうな顔をしていました。
「ヨハナ、どうして、神様が、お前に罰を与えるものか。あれは、私への責めだろう」
「しかし、あなたが、どんな悪いことをしたと言うのです。あなたの指がないのは、あなたの責任ではありません」
「私に、親指がないから、子供にも指がなかったわけではない。私は、心に抱えているものがある。それを話すことができる日が来たら、まず、お前から話そう。それまで、待っていてくれ」
ヨハナは、それ以上、何も言えなくなりました。
それから何年かが過ぎた頃、一度は、ホルツが心の重荷について話してくれるのを待つことにしたヨハナでしたが、ホルツは、いつまで経っても打ち明けてはくれません。
今夜こそは、真剣に話し合おうと考えたヨハナは、ホルツの仕事部屋に向かいました。柱時計を見ると、真夜中近くです。
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