第16話 赤ん坊の誕生

 ホルツは、ヨハナのために、なけなしの金で、ろばを買いました。そのろばにヨハナを乗せて、目指すのは、あの親方のところです。雪の降る一二月の二四日の夕方に、ようやく二人は親方の家の前にたどりつきました。

 ヨハナが乗ったろばをひいて、ホルツが、大きな声で親方と叫びました。仕事場にいた親方は、自分の名を呼ぶ大きな声に驚きました。なんと、ホルツが、ろばをひいて、そのろばには、お腹が大きそうな女性が乗っていたのです。

「ホルツ、どうしたのだ、そして、そのろばに乗った女性は、どなただ」

「親方、これは、私の妻です。産み月になりました。どうか、これのために、部屋を貸してくれませんか」

「おお、そんなことは、たやすいことだ」

 親方は、ホルツの一行を見て、今日は、本当のクリスマスになったとつぶやきました。

 ホルツは、ヨハナをろばからおろし、親方が用意してくれた部屋に休ませました。とても暖かく、外の寒さがうそのようです。ヨハナは、親方の奥さんと一緒に部屋で夕食をすませ、しばし体を休めました。ヨハナに陣痛が始まると、親方の奥さんが、てきぱきと世話をしてくれます。

 親方の奥さんが、ヨハナの面倒を見てくれることに安心したホルツは、親方から家族と一緒に食事をする部屋に、初めて招かれました。大きなテーブルには、ご馳走がならび、暖炉の火があかあかと燃えていました。

 今日は、クリスマスイブだったのかと、改めてホルツは、思いました。それにしても、出される料理のおいしいこと、ホルツは村にいるお母さんにも、こんなごちそうが食べさせられたらと思ったほどでした。

 一段落したところで、親方が、ホルツを自分の部屋に呼びました。ホルツが、椅子に座ったのを見て、親方は、パイプに火を付け、ホルツに切り出しました。

「ホルツ、ずいぶん、苦労をしたようだが、奉公明けから、今までどうしていたのだ」

 どこから話したらよいのだろうとホルツは、悩みました。そんなホルツの思いを察したかのように、親方が、

「ところで、代官様から、わしがお前にやったお金について問い合わせの手紙が来たが、大丈夫だったのかな」

と尋ねてくれました。

「はい、お陰様で、疑いは晴れました」

 ホルツは、ヨハナとの結婚に至った長い長い話と、その後の「旅職人」になって、各地を遍歴したことを親方に話しました。

 最後まで、聞いていた親方は、

「どういうわけか、妻を連れた腕のいい木ぐつ師が諸国を回っているという噂を聞いたが、お前のことだったのか」

 親方は、目をつぶってしばらく考え、言いました。 

「どうだ、もう一度、うちで働いてみるか。お前は一人前だから、それなりの給金は出すよ」

 ホルツは、今日の今日、住むところもないと正直に打ち明け、親方の申し出に、感謝しました。ホルツの腕を見込んだ親方は、快く二人を受け入れてくれ、住むところも用意してくれました。

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