第9話衣装合わせ

「おばちゃんが起きたら寂しがるよ?」と言われて後ろ髪が引かれる思いで、結婚式の披露宴で彼女が着替える晴着の寸法合わせの時間が迫っていたので、西代の市民病院を後にした。

 ミーちゃんは大曾根家の四人兄弟の4番目に生まれた末娘だった。

 大曾根甲(おおそねこう)は次男の第一子で、生後3か月で小児喘息を発症して、2回ほど危篤状態に陥った。

 その時も一番心配してくれて遅くまで僕に付いていてくれていた。

軈て僕も成長し、高校生になった時にはラグビー部に入部した。

 叔父さん(親父の兄)の長女の夫が、製鋼会社のラグビーチームにスクラムハーフとして赤いユニオーム姿で活躍していたから憧れもあったと思う。

 そして高校卒業を目前にした正月の3日、湊川神社へニーちゃんと叔父さんとで、初詣に寝てるのかな?「ミーちゃんオバちゃん僕な、結婚するねん。」大曽根家のどの親戚よりもミーちゃんに報告したかった。

しばらくして満面の笑顔がミーちゃんの顔面一杯に形成されて、「分かってくれている。」

くも膜下出血で倒れたミーちゃんは左半身麻痺の様で、右手を翳していたので、しっかりとミーちゃんの右手を握り締めた。両手で包んでいたが、誰よりもミーちゃんの右手は温かだった

。小さい頃、喘息を発症した苦しそうな僕の背中を擦ってくれたし、僕が中学に上がる時、祝いに万年筆を贈ってくれて、担任の話に

「甲ちゃんの山名先生は私が中学生の時と同じ先生よ!?」と、言って喜んでくれた

。そんなこんなを想いだし、ミーちゃんが僕の顔を観て安心したかの様に寝息を立てて、寝入った頃を見計らい帰る事にしたが、看護婦に「もう帰るの?」

「おばちゃんが起きたら寂しがるよ?」

と言われて後ろ髪が引かれる思いがしたが、披露宴で彼女が着替える晴着の寸法合わせの時間が迫っていたので、西代の市民病院を後にした。

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