「俺さあ、最近ヤなことが続いててさ」


 唐突に大きな声で発する。日焼けの肌で顔色が変わって見えないが、もしかしてもう酔っぱらってるんだろうか。


「知ってる? 最近の画像AIって、まあよくできた写真を合成してくれるんだよね」

「ああ、単語や文章で指定して、イラストとか写真を生成するやつですよね」

「そうそう、呪文を唱えると勝手に作ってくれるってヤツ」


 画面をこちらに向けて見せつけてくる。目に飛び込んできた画像に面食らう。

 大写しにされているのは、人並みはずれて整った顔の少女だった。裸同然で、男を誘う姿勢をしている。


 しかも、人通りのあるビル街の交差点のどまんなかで、物欲しげに微笑ほほえみ、大きな瞳でこちらを見つめる。現実ではまず不可能な光景だった。


「うわ」

 反射で声が出た。ノーガードのまる見え状態じゃねえか。だいじょうぶなのか、と思った。写真と遜色ない出来ばえの合成画像。人物は未成年にしか見えない。


 視線をそらしながら平静を装う。

 こんなものを見せられても反応に困る。嬉々として凝視するほどには、スマホの持ち主と気心が知れているわけではない。


 知り合ってまだ数日だった。帰宅したら、ちょうど玄関扉を開ける隣人と出くわした。いい機会だとばかりに引っ越しの挨拶を交わしたら、やけに気に入られてしまった。

 不案内な土地だけに、慣れた住人と話してみたかった。インターホン越しに引越祝いの口実で酒盛りに招かれ、ついその気になって、ふたつ返事で上がり込んでしまった。


 少々軽率だったかもしれない、と悔いる。


「俺は、どっちかというとデッカイほうが好きなんで」

 個人の性的嗜好に口を挟むつもりは毛頭ない。だけど、趣味でもないのに見せつけられても反応に困る。


 はあ? と男が声を出した。どうやら機嫌を損ねたわけではなさそうだった。

「いやいや、そうじゃねえって」

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