違う違う、と軽薄に笑う。ここだよ、ここ、と指で示す。

「ここ見てくれよ」


 指の先には人の群れに紛れる後ろ姿が見て取れる。髪が長いのと体型からして、おそらく女だ。


「それからこっち」

 さらに画面上をスワイプする。細くて長い人差し指と中指で、画像を拡大してみせる。

「ほら」


 似たような顔の少女が、あられもない姿でしなをつくっているその背後。人混みに紛れるその他大勢のひとり。


「──?」

「それだけじゃない、こっちも」


 次から次へと画像を見せられる。この手の画像にはありがちで、つぎはぎされた目鼻がうまく馴染まず、顔の造作が崩れているものも多い。

 なにが言いたいんだ、と思うが、声には出さずにおく。相手はひとつを見せては、次を見せようとしてひたすら同じ動作を繰り返す。


 なにやら、切羽詰まったようすがうかがえた。


「はじめは気づかなかったんだ」

「なにをです?」

「たくさんのなかにまぎれてたからな」


 だけど、と言って、こちらに向けた顔には矛盾した表情があった。泣きそうに顔をしかめている。怒っているようにも見える。なのに無理に笑おうとしている。

 別人の顔に見えた。あんなに男前に思えた顔がくたびれて、土気色になっている。


「なんか変だと気づいたんだよ。そしたらよけいに酷くなった。どうやっても消えなくなってさ。いつも写り込んでるんだ」

 いや、と言って、呼吸をし、強い語調になった。

「入り込んでやがる」


 すうっと、室温が下がった気がした。


「えっと──」

 乾きかけた口内にアルコールの湿しめりをくれて、舌を動かす。


「つまり、こう言いたいんですか? AIの作った画像に、いつも同じ人物がいる、と」


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