第29話 決戦 前編

 白鳥先輩へ

 放課後、体育館裏に来てください。

 お話ししたいことがあります。

 新藤新より


 俺は簡潔に文章を書いて、検査の次の日――終業式の日、白鳥先輩の下駄箱に手紙を入れた。

 

「話しかけるのは難しそうだから、手紙を入れればいい。白鳥響子なら、面白がってくるだろう」


 という鷹井先輩の案を採用した。来てくれることを祈っているが、変態病の彼女が俺の思い通りに動くのか、一抹の不安が拭えない。


 放課後まで、貧乏ゆすりを止められなかった。

 ――高校に入って白鳥先輩に出会ってから、初めて彼女のことを考えてニヤけることができなかった。


 放課後、いそいそと教室を出る。すると廊下には俺より先に外に出ていた深山が立っていた。


「……鷹井先輩から話は聞いたよ。なんともまあきな臭い話になってんな」

「まあ、な」

「けど、これでお前の呪縛がちょっとでも解けてくれるなら俺は応援するぜ。……なんだかんだ言っても、俺はお前のちゃんとした恋愛を応援してんだからよ」

「……ありがとう、深山」


 俺たちはお互いに拳を突き合せた。

 ……ほんと、いいやつだな、深山は。


 ◇


 下駄箱で靴を履き替える。

 白鳥先輩の下駄箱を覗きたい気持ちでいっぱいだったが、それをすれば人間の尊厳を失う気がしたため、校舎を出た。


 と、そこには見知った顔が4つ並んでいた。


「インマーズ……」


 森永先生を中心に曽根崎、燈、舞ちゃんが待ち構えていた。

 こんな大事な時に絡まれている時間なんかない。俺は有無を言わさず強行突破しようとした。が、機先を制するように森永先生が口を開いた。


「インマーズはもう解散したわ。やっぱり私たちに団体行動はできないみたい。それに、今のあなたを止めるわけないじゃない。……あなた自ら、私たちの敵を倒しに行ってくれるんだから。応援してるわ」


 森永先生は道を開けるように一歩横にずれた。


「なんかよく分かんないけど、頑張れ、アラポン!」

「そうそう、綺麗さっぱり終わったら、また突撃しちゃうからね!」

「……あんな人に惑わされないでください」


 三人からもそれぞれ激励の言葉を貰う。これが普通の人たちなら心強い応援なんだけど、インマーズ……改め淫魔どもから言われても裏があるようにしか思えない。

 ま、原因は俺にあるから、悪くは言わないけどさ。


「あいよ、じゃあ、行ってくるよ」


 ◇


 体育館に沿って歩いていく。後はここを右に曲がれば晴れて体育館裏だ。

 しかし、木の陰からヌッと、竹刀を持った鷹井先輩が現れた。


「鷹井……先輩」

「今更いうことなどなにもないと思っていたのだがな……心配でつい見に来てしまった。けど……いつものメンツに囲まれてきたおかげで大丈夫そうだな」

「まあ、おかげさまで」


 鷹井先輩が淫魔たちに情報を流したのか。

 なんというか以外ではあるが、それだけ俺のことを考えてくれているのだろう。

 おっかないけど、なんていい人なんだ!


「白鳥響子はここを曲がったところで待っている。……頑張れよ」


 鷹井先輩は俺の肩をポンと竹刀で叩いて去っていった。


 白鳥先輩が、もう来ている。

 どんな顔でいるんだろうか。

 なにを言われるんだろうか。


 不安で押しつぶされそうだ。


 でも、負けられない。

 ここを乗り越えないと、俺は自分の殻を破れない。


「――――よし、行くぞ」


 俺は自分の頬を叩いて気合を注入し、体育館裏へと向かった。

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