第27話 俺と生徒会長 前編
インマーズに絡まれ、ろくに飯も食えないまま授業を受けた。
――彼女たちは結束して白鳥さんを蹴落とそうとしている。
それを好意的になんか見ることはできない。
だって俺の好きな人なんだぞ!
愛し恋しの白鳥さんになにかあったら絶対に許さない。
そう、思っていたはずなのに……。
俺はシャーペンでペン回しをしながらろくに授業も聞かずに白鳥さんのことを考え続ける。
白鳥先輩の謎。
俺と同じ異常体質なんだろうか。
そう思える節はこれまで何度もあった。
ただ誑かされているだけなのではないかという思いが、俺の心の中で渦を巻き始めた。
誰かに相談したいけど……深山はこういったことには疎いし、インマーズの面々なんてもってのほかだ。まさか白鳥先輩に聞くわけにもいかないし……。
いや待て、一人適任がいるじゃないか。
しかも、この前デートの誘いまで受けている。
今頼れるのはあの人しかいない!
俺は放課後まで机に突っ伏して、ひたすら時間が過ぎるのを待った。
◇
「……で、ここに来たと」
俺は生徒会室を訪ね、いつも通り剣道着姿の鷹井先輩に一部始終を話した。
「なんか、いい方法ありませんかね……」
「よく言ってくれた。私から誘っても断られるだろうと待っていたが、こうも早く来てくれるとは、よし、さっそく準備をしよう」
鷹井先輩は俺の言葉に食い気味で反応を示した。いつになく笑顔でいるところがやけに怖い。
そんなに乗り気になることか。
ああ、もうスクールバッグを担いじゃってる。第一どこに行くつもりなんだろうか。
「君を病院に連れていく」
俺の心を読んだようにスパっと言った。
「病……院……?」
まるで想像もしていなかった答えに一瞬体が硬直してしまった。
どうしてさっきの話から病院が繋がるんだ。
「君の異常体質と異常性癖について調べる。もう既に病院には連絡済みだ。……この二つのことが解き明かせれば、白鳥響子のことも自然と分かるとにらんでいる」
鷹井先輩は竹刀を肩に当てながらギラつかせた目を覗かせた。
……これは拒否権ないみたいっすね。頼る人間違えたかな。
「ほら、グズグズするな、行くぞ」
俺は行くとも行かぬとも口にしていないというのに、襟首を掴まれて、彼女が予約していたという総合病院に連れていかれた。
◇
「ここ、黒い靄アルネ」
瓶底眼鏡をかけた医者が俺の脳のMRI写真を指差した。
よく分からない機械の中に入れられたり、体によくないようなチューブを突っ込まれたりと、鷹井先輩の監視の元検査をさせられ、診察室にて怪しげな医者に今日の結果を聞いていた。
「これは……なんですか?」
「変態病ネ」
「……は?」
「血がにじんでいるのではなく、墨で塗られたような黒さは変態病を表しているね」
「そこの説明じゃなくて、その変態病とやらの説明をしてください!」
初めて聞いたぞ、変態病。
「ようするに、普通の人間とは違うということネ。もっと詳しく言うと、人を惹きつけるカリスマ性が常人の百倍になるらしいネ。対象は様々だけど、君はエッチな子を惹きつけるのネ。うらやましいアルネ」
……聞いてもいないことをベラベラと話す胡散臭い医者。
だが言っていることはまとも……だと信じたい。
「先生、それで、異常性癖のほうは……」
鷹井先輩が間に割って入った。
全く動じない鷹井先輩、ホント凄いな。
てか異常性癖って言葉をなんの恥ずかしげもなく言えるのかい。
「それも変態病の亜種アルネ。体質が性癖に影響しちゃってるネ。大体は体質と相反することが多いネ」
「そ、そうなんですか」
なんかいろんなことが一気に分かったな。
――と、いきなり瓶底眼鏡の医者が顔を近づけてきた。
「……ちなみに、この病気は遺伝性がとても強いネ。だから家族仲悪くなりやすいネ。君の家は大丈夫アルカ?」
言われて肩を跳ね上げさせた。
母さんは父さんを嫌っていた。
俺はただその嫌いな父さんの血を引いているから嫌われているものだと思っていたけど、もしかして父さんも変態病だった――?
俺はしどろもどろに「ええ、まあ」とだけ答えた。
「先生、最後の質問ですが、こういった病気は女性でも起こりえますか?」
目を伏せた俺を横目に鷹井先輩が質問を投げかけた。
医者は瓶底眼鏡のブリッジを人差し指で押して、怪しげな笑みを浮かべた。
「男女平等に発症するネ。……巻き起こす被害は、女性の方が数段上になるネ。なんたって、男性に比べて女性は病気に色気が乗っかるアルからね」
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