第25話 インマーズ参上! 後編
「で、みなさん集まって、いったいなんのようだよ」
俺は敵意を隠さず言った。そうでもしなければ耐えられそうになかった。
この淫魔どもの蠱惑的な眼差しに。
「あれー、なんの用だっけー?」
「お前もわかんないのかよ!?」
曽根崎の場合、すっとぼけているわけではなく、本当に理解していないのだろう。
なんというか、曽根崎がこうやって徒党を組むように思えないし。
だとすれば、首謀者は――
「私から説明するわ」
今朝からおっぱいを出し続けている獣、森永先生が手の平を突き出し俺を手で制した。
「いくら食堂だからって、別に取って食ってやろうってことはないわ」
……笑えない冗談だな。
「ただ、あなたを本気で獲りにいく算段をつけたことをお伝えしにきたのよ」
森永先生は両肘をテーブルの上に乗せて、手の平で顎を支えるような体勢をとった。
「わざわざそんなことを伝えに来たんですか? 俺はぜんっぜん、1ミリも、地球が破壊されたとしてもなびかないっていうのに?」
「そこまで言われると……悲しいです」
舞ちゃんは分かりやすく項垂れてた。
……でもおっぱいがテーブルの上に乗っかってシュールに見えてしまう。彼女にとってテーブルは乳置きか。
「だから、作戦を変えたのよ。私たちはいがみ合うことを一旦やめて、とある目的のために他チームを組んだ。……さ、みんな、やるわよ!」
「……はーい」
どうも様子がおかしい。
森永先生は張り切っているが、他の3人はなんだか無理矢理のようだ。
森永先生たちは立ち上がり日曜朝8:30からやっている戦隊モノのようなポージングをビッシィッ! と音が聞こえてくるようなほど鮮やかに決めた。
「インマーズ、参上!」
「馬鹿か!?」
あまりのアホらしいネーミングセンスと決めポーズに食い気味で突っ込んでしまった。
周りの生徒たちも口をポカンと開けて見ている。
ほんと、やることなすこと、大人とは思えないな。
「…………で、それを俺に報告してなにになるんですか」
とりあえず拍手だけしてため息混じりに言った。
森永先生を除く3人はそそくさと椅子に座り、それを見た森永先生もコホンと空咳を1回して席着いた。
「ある目的のためって言ったでしょう? ……その目的は……あなたの目を白鳥さんから目を背けさせること」
「へ……へぇー」
なんで返事したらいいかまったくもって分からず変な声が出ちまった。
第一そんなこと能動的にやるのは無理があるだろ。
「そのために私たちは組んだの。それが片付いてから、また私たちは敵同士となって新藤君を狙う。今のままじゃあなた、全然私たちのこと見てくれないんだもの」
「そりゃあ、まあ、だって好きじゃないですから」
「ガビーン! そんな、新、酷い……」
燈がギャグ漫画のような涙を噴出させる。
……誰かこいつらを止めてくれ。
「まあ、あの、お話は分かりました。頑張ってください」
「ええ、頑張らせてもらうわ」
森永は指を鳴らしながら立ち上がる。どうも、他の3人を立ち上がらせる合図のようだ。
3人はのそのそと立ち上がると、尻を振りながら歩く森永先生の後ろについていった。
まるでアヒルの親子だな。
「っと、そういや深山のやつ遅いな」
食堂は繁忙期を終えて人波がほとんどなくなり、周りを見渡せるようになっていた。キョロキョロと深山がいないか見ていると、すでにお腹をパンパンに膨らませた深山が爪楊枝を使いながら悠々と座席に座っていた。
「おい、深山! なにやってんだよ!」
深山が座っている場所に近付くと、きつねうどんが入っていたであろう器と、俺が食べるはずだったかつ丼の空の器がテーブルに置かれていた。
「ひぃぃぃぃぃぃ! 俺のかつ丼……」
「お、新藤、悪いな。なーんかヤバそうな雰囲気だったから、全部食っちまった」
俺は膝から崩れ落ちて、しばらく立ち上がることができなかった。
深山の言い分は分かる。逆の立場なら俺だって絶対に近付かない。
けど……けどよぉ……!
声にならない嗚咽が漏れ出て、俺の貴重な昼休みが終わりを告げた。
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