第24話 インマーズ参上! 前編

「くぁ〜あ」


 俺は学校に着いて早々、特大の欠伸をかました。


 昨日は白鳥先輩のこと考えてたらあんまり眠れなかった。いつもなら喜ばしいことだけど、今回はちょっと違う。


 白鳥先輩のことを考えれば考えるほど胸が苦しくなるって言うか……ドキがムネムネすると言うか……。


「いつもと変わんないじゃないか」


 頭に手刀が落とされて俺は現実に引き戻された。深山が呆れたような目で俺を見ている。


「ぜんっぜんちがーう! お前は俺をなんだと思ってるんだー!」

「そんなの、白鳥先輩を追いかける異常性癖者以外、なんとも思ってないぞ」


 ……人に言われるとやや傷つくな。

 と、俺たちの会話を遮るようにして鐘が鳴った。

 次いで森永先生が姿を現ーー


「っでぇぇぇぇぇ!」


 いち早く俺が声を上げた。それを皮切りにクラスメイトがザワザワとどよめきだす。


 森永先生は黒い水着姿でご登場なさった。装飾品などは一切なく、スマートに勝負と言ったところか。サイズが合っていないのか、特大のおっぱいが水着からこぼれ落ちそうになっていた。


 つーか森永先生肌白!

 マジマジ見ると出るところだけ出ていて、全体的に線が細く、世間一般的なナイスバディを体現していた。


 いつもは二つ結びにしている髪の毛を、今日は三つ編みにしていて、淫魔でありながら清楚感が漂っている。


 森永先生は俺を見てウインクをしてみせた。


「はーい、ホームルームを始めまーす。……みんな気付いていると思うけど、今年から先生たちもクールビズを始めました。今日の朝決まったのでまだ私だけだけど、今後はこういった服装をする人たちが増えてくると思います。でもみんなは狼狽えたりせず、授業に集中してね」


 教壇に立つ先生とは思えない風貌に、動揺するなというほうが難しい。


 というか今日の朝決まったって、森永先生お得意のゴリ押しだろ、それ。

 普通は会議とかやって決めていくもんじゃないのか。……まあ、水着にOKをもらえるなんて、深山に彼女ができるくらいの確率だと思うけど。

 

 しかし意外にも森永先生は水着について冒頭で触れただけで、後はつつがなくホームルームが進行して何事もなく終わった。


「……なんか、かんっぜんにお前をターゲットにしてなかったか?」

 

 ホームルームが終わった後、深山は体を180度回転させて俺と向かい合った。


「だな。……なにが起きてるのやらサッパリだ」

「いつも彼女欲しいって言ってるけど、ここ最近のお前を見てたら羨ましさがなくなってきた……」

「だろ……心労が絶えない日々なんだよ」


 だが、なーんか違和感を感じるんだよな。

 たしかに先生として相当おかしなことをしていることは分かる。けど、行ってみればそれだけだ。


 俺はファーストコンタクトで首筋舐められている。なんというか、インパクトに欠けるというかなんというか……。


「……いやいやいやいや、なにを考えてんだ俺は」


 ちょっと物足りなさ感じちゃったりしてないか俺!?

 これ以上の性癖はいらないぞ!!!


 頭をガシガシと掻きむしっている間に1時限目の先生が教室に入ってきた。

 ……当たり前だけど、ふっつーにワイシャツにスラックスだった。


 ◇


 4時限目が終わり、昼飯の時間になった。

 俺と深山は2人で1階の食堂に赴く。


「なんだかんだ、深山と学食行くの初めてじゃね?」

「……作者の都合だろ」


 そんな他愛もない会話をして食堂に入る。


 1つの長テーブルに椅子6つ置かれており、それがワンセットとしてずらりと並べられていた。


 食堂は学生でごった返しており、どこが並んでいる列だか分かりやしない。


「俺買ってくるから、新藤は席を取っててくれぇぇぇ!」

「分かった! 俺はカツ丼んんんん!」


 お互い人の波に流されていく。

 汗と消臭剤が入り混じった匂いの中流れに身を任せていると、気付いたら2席空いている椅子の前まで来ていた。


「お、ラッキー、いただき……」


 ーー足を踏み入れた時にはもう遅かった。ここは魔の領域……いや、淫魔の領域。曽根崎、燈、舞ちゃん、森永先生、全員が際どい水着を着ていて、四方八方どこを見てもおっぱいに視線がいく。谷間なんか見せて当たり前、なんならその先も見せてやろうかという気概を全員から感じた。


「どーしたの? 早く座りなよアラポン」


 固まったまま動かない俺に曽根崎が間延びした口調で言った。


「そうだよ、早く早く」

「……座ってください」

「昼休み終わっちゃうわよ?」

 

 淫魔どもが曽根崎に続いて口を開く。


 くそ、他を見渡しても席は空いていないし、なにより人の波が凄くて移動できそうにない。


 チャンスと捉えよう。

 せっかく淫魔が全員揃っているんだ。

 ここはビシッと言ってやる。


 俺は全員の顔を見渡しながら椅子を引いて着席した。

 

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