第23話 尾行大作戦 後編

「いまどこだ、深山!」


 俺は校門から出て深山と電話で連絡をとった。


『今駅前のゲームセンターに入って行ったところだ! 俺は外で見張ってるから2人揃ったら中に入るぞ』

「分かった、すぐに行く!」


 スマホをポケットに入れて全力疾走する。

 が、そこにはわずかな不信感があった。


 白鳥先輩がゲームセンター……?

 なんだか似合わないな。

 実はゲーム好きとかするんだろうか。だとしたら俺超有利じゃないか。運動は駄目でも、ゲームならいいところを見せつけられる。さりげなーくゲームセンターでカッコいいところを見せつければ、見直してくれるかもしれない。


「ふへっ……ふへへへへへ」


 不信感が一瞬にして吹き飛んだ。

 やっぱり白鳥先輩は最高だぜ!


 ◇


 駅前のゲームセンターに辿り着くと、隣のビルの影でゲームセンターの入り口を見張る深山の姿が見えた。


「ど、どうだ、深山」

「今のところ動きなしだ。なんかゲームでもやってるっぽい」


 深山は手に持っていたアンパンをかじりながら言った。

 こいつ、意外に役にのめりこむタイプだな。


「とりあえず突撃してみるしかない。仮にバレても、ここなら他の学生も利用してるから、そんなに変なことはない」


 深山は冷静に分析して瓶の牛乳を飲み干した。

 俺も買ってくればよかった、張り込みグッズ。


 俺たちは堂々と正面の自動ドアからゲームセンターに入る。

 ここは4階建てのゲームセンターで1階がクレーンゲーム、2階が音ゲー、3階が格ゲー、4階がその他となっている。


「白鳥先輩が行くとしたら1階か2階かなぁ」


 クレーンゲームが立ち並ぶ1階で、縦ニットにロングスカートの女の子を探す。

 放課後の時間は他校の高校生もそれなりにいて、クレーンゲームフロアは男女のカップルがキャッキャしながら遊んでいた。

 別に、羨ましくなんかねぇし。


 2人で手分けして探したが、1階には姿が見当たらなかった。


「ま、一つ一つ探していこうぜ。ここにいることは間違いないんだからさ」


 深山は俺を励ましながら階段を上っていく。

 深山の言う通りだ。白鳥先輩には悪いが、彼女はすでに袋の鼠。絶対に彼氏がいるかどうか確かめてやる!


 しかし、2階、3階にも白鳥先輩はいなかった。


「残るは4階か」


 深山は壁にかけられた案内表を見た。

 4階はバラエティフロアとなっていて、メダルゲームやパズルゲーム、麻雀やダーツ等が置いてあった。


 なんだろう、すごく風向きが変わった気がする。けど引き返す選択肢なんて俺にはねぇ!


「行くぞ、深山!」

「おう!」


 俺たちは階段を上って4階に足を踏み入れた。

 これまでのフロアとは違い、暖色の灯りを用いられているため、店内が薄暗い。


 ーー月は夜でも輝いているように、そんな状態でも彼女の姿は煌めいて見えた。


「白鳥……先輩」


 俺は大型メダルゲームに背中をつけて、白鳥先輩がいた場所を見た。


 ダーツの矢を投げる白鳥先輩。

 綺麗な放物線を描いてブルに刺さる。


 それは、いい。

 まったくもって俺の得意分野じゃなかったけど、まあ、いい。

 やっぱり白鳥先輩は美しいと、再確認できた。


 問題はその周りだ!

 3人もの男たちと一緒にダーツを楽しんでいるではないか!


 やつらは白鳥先輩の彼氏なのか? それとも白鳥先輩に言い寄る不埒な輩か?

 少しでも白鳥先輩が嫌な顔をすれば飛び出していくが、幸か不幸か、白鳥先輩は笑顔でダーツをしていた。


「くっそ……なんなんだあいつら……!」

「落ち着け新藤。たぶん彼氏ってわけじゃなさそうだぞ」

「なんで分かるんだよ」

「身振り手振りが落ち着きないって言うか、持ち上げているように見える。彼氏って言うより白鳥先輩の崇拝者って言ったほうが正しそうだ」

 

 深山に言われて取り巻きの男たちに注目する。たしかに金髪オールバックのチャラチャラした男も、グラサンをかけた強面な男も、知的な眼鏡をかけた男も、全員崇め奉っているように見えた。


「なにやってんだお前たち」


 ヌゥッと白鳥先輩への視界を遮るようにタンクトップを着た大男が目の前に現れた。

 まったく見覚えのない人物だが、おそらく白鳥先輩の信奉者だろう。


「い、いえなにも……それじゃっ!」


 得意の煙玉で文字通り煙に巻いて深山とともにゲームセンターから逃亡を図った。

 大男の唸り声が聞こえたが、振り向くことなくゲームセンターから飛び出る。そして止まることなく住宅街までダッシュした。


「な、なんなんだよあいつ!」


 俺はアスファルトの上でうずくまり悪態を吐いた。

 ストーカーはよくないこととはいえ、なんか異常だぞ、あいつ。


「本当に白鳥先輩はミステリアスなんだな」


 深山は息を乱さず言った。

 くそ、額から垂れる汗がやけにかっこよく見える。


「そんなこと言ってる場合かよ。彼氏がいるかどうか見に行ったら、白鳥先輩の変な日常を見せられちゃったんだぞ」

「お、もしかして愛想ついたか?」

「逆だ! もっと美しく見えた!」

「……そうかい」


 深山は深いため息を吐いて首を横に振った。


 実際かなりの衝撃はあった。だが、同時に白鳥先輩なら信奉者を集めることも容易なのだろうという思いもあった。


「でも……俺、白鳥先輩のことが好きな割には、白鳥先輩のことなんにも知らないな……」


 なぜ俺は白鳥先輩のことが好きなのか。

 白鳥先輩はどんな人なのか。


 一度立ち止まって考えてみる必要がありそうだ。


「……淫魔どもが立ち止まらせてくれればいいけどな」


 俺も深山に倣って大きなため息を吐いた。

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