第22話 尾行大作戦 中編
放課後の鐘が鳴った瞬間、俺と深山は教室の外へ飛び出し、転がるように階段を降りた。
3年生の教室は一階。モタモタしてては先に帰られてしまう。全力疾走の末、一番乗りで下駄箱に到着した。
「とりあえずここにいれば帰るタイミングは見逃さないだろ」
俺は後ろにいる深山に声をかける。
「けど、こんな通路のど真ん中でに突っ立ってたら、怪しすぎないか?」
「それを、俺の忍法でなんとかしようというわけだ」
俺は大きな布と苦無(本物)をスクールバッグから取り出す。
「ちょ、新藤、お前それ本物じゃないか!?」
深山は苦無をさすり声を上げた。
それはダメだろ、顔をで訴えかけてくる。
「いや、今回はこれじゃないとダメなんだ」
そう言って俺は大きな布を宙に舞わせると、下から苦無を投げて四隅に穴を開けながら天井に突き刺さった。
「即席の隠れ場所完成だ!」
「ど阿呆!!! なにをやっている!!!」
ほとんど食い気味で女性の甲高い声が廊下の向こうから聞こえてきた。
振り返ると、まさしく面を打つ体勢で鷹井先輩が襲いかかってきた。
「ヤバーー」
俺が目視した時には、もう避けられる距離ではなかった。
ドンッ!
ゴッ!
バキッ!
ズリャリャリャリャリャリャリャッ!
◇
「…………なるほど、白鳥響子を待っていた、と」
「そ、う、で……す」
俺はでかいタンコブと全身打撲という代償を支払って、鷹井先輩に事情を説明した。
……よ、容赦がない……。
下駄箱で靴を履き替える生徒たちも俺を見て吹き出すのを堪えながら帰ってるし。紛うことなく晒し者だ。
しかも絶対白鳥先輩も帰っちゃってるし。
踏んだり蹴ったりだ。とほほ。
「だからといって、学校の天井に穴を開けるな。ったく……なにか起きる時はいつも君からだな、新藤新」
鷹井先輩は竹刀の先で俺の顎を突いた。
くそう、いかに森永先生や燈から救われた過去があるとはいえ、ここまで叩かれっぱなしで言われっぱなしなのも癪だな。
……ここは一つ、おちゃらけ忍法にて窮地を脱するか。
「俺がトラブルメーカーだなんて、そんな……」
「そんな認識の甘さだったのか君は!」
鷹井先輩は再び鋭い目つきに戻ると、竹刀を上段に構えた。
「ちょ、ストップ鷹井先輩!」
待て待て待て、冗談だ。俺のせいで鷹井先輩に迷惑をかけている自覚はある。
けど、そんなに怒ることだろうか。
鷹井先輩の反応を見る限り、俺という存在は、後輩の可愛いトラブル、なんかでは済まされない災禍をもたらす者として見られているようだ。
確かにそうかもしれないけど、俺が自発的に起こしたトラブルなんて数えられる程度で済みますけど。
「なんか、すみません」
……うむ、ここは謝るが吉なり。
心なしか鷹井先輩の表情が軟化した気がするぞ。
「……はぁ、なんだか疲れた。もう今日はこれで帰っていい。ただ、一つ約束させてほしい」
鷹井先輩は大きなため息をついて俺の目を見る。真っ直ぐな眼差しが、彼女の正義感をまざまざと伝えてきた。
「今度、予定が合えば私と出かけてくれないか?」
「…………?」
ナニヲイッテイルノカナタカイセンパイハ。
「す、すみません、なんかうまく聞こえなくて……もう一度言ってもらってもいいですか?」
「? ずいぶん耳が遠いな。今度出かけてほしいと言ってーー」
そこまで言うと鷹井先輩の白い肌が途端に真っ赤に燃え盛った。
バ……バーニングだ……!
ていうか言い直すまで気が付かなかったのかい。
「違う、違うぞ新藤新! 私はそう言うつもりで言ったんじゃないッ!」
「ヘブッ!」
竹刀で横殴りにされ、俺の体は下駄箱に突っ込んだ。まだ帰っていない生徒の靴が俺の頭に降り注ぐ。
これは俺悪くないだろ……。
「とにかく、また連絡するからな! 予定空けておけよ!」
鷹井先輩はポニーテールを揺らしながら去っていった。
最初から最後まで俺の体を心配してくれないのね……。
「あれ、そういや深山はどこ行った?」
鷹井先輩の折檻を逃れていたことは薄々感じていたけど、姿形なくすとは。
目の届く範囲に深山が見当たらないためスマホで連絡を取ろうとする。と、すでに深山からラインがきていた。ほんの数分前だ。
『今白鳥先輩尾行中 なにやら怪しい雰囲気! 鷹井先輩との件が終わったら連絡くれ』
か……神かよ深山ぁ!
あいつはいいやつじゃない、神だ!
俺は急いで靴を履き替えて校舎を出るとともに、深山に電話をかけた。
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