第20話 第2回淫魔会議 〜アナザーサイド〜

「それじゃあ、第2回淫魔会議を始めるわね」


 森永は進路指導室に集まる曽根崎、大笛、舞に対して声高々に言った。


「ちょーめんどーなんだけどー」

「そうですよ! なんで今回は森永先生がこの会を開くんですか!」


 曽根崎と大笛は口々に文句を浴びせてくる。

 舞だけは森永の顔をじっと見て、今回の会について見定めているようだ。


「今が1番大事な時だからよ」


 森永は宥めるようにして全員を見回した。


「曽根崎さん、あなたの目的はなにかしら?」


 蛇のような目で曽根崎を見る。

 曽根崎は「えっあたし?」と自分を指差した。


「えっとー、アラポンと付き合うこと」

「そうね。じゃあ大笛さんは?」

「曽根崎さんと同じです」

「舞ちゃんは……言わなくても大丈夫そうね」


 舞の、その場の空気を歪めてしまうような圧力で察した。日に日に彼女の秘めたる力が増している気がしてならない。


 だが、今回緊急で招集したのは、そんなライバルの強さをも超える強大な敵との戦いに備えるためだった。


「そう、私たちの目的は一致している。だからこそ対立しているわけだけど、どうやらそんなことをしている場合ではなくなったわ」

「どういう……ことですか?」


 ここに来て初めて舞が口を開いた。


「……白鳥さんの影響力が日を重ねるごとに強くなっている。それはもう手のつけられないほどに。体育祭まで甘く見ていたけれど、考えを改めたわ。彼女が新藤君の誘いに乗るとは思い難いけど、このままだと白鳥さんの操り人形のように、心を奪われてしまうかもしれないわ」


 森永がここ最近考えていたことを口にした。

 ――白鳥響子はなにかがおかしい。

 この学校が1人の女性に制圧されているようだ。

 そして、そんな女性の影響を受けていないのは、おそらく新藤に惹かれている人のみ。


 森永は、学校がどうなろうとも知ったことではない。ただ、新藤をたぶらかす白鳥を許すことができなかった。


 そのため、本来ライバルである女の子に断腸の思いで声をかけたのだ。


「シラトリセンパイ? ……あー、アラポンが追っかけてる先輩ねー。たしかに変な感じというか、変な空気してるよねー」


 両手を後ろに組んで後ろにのけぞる曽根崎。興味がないように見えるが、彼女にも思うところがあるのだろう。目だけは真っ直ぐ森永に向けられていた。


「それで、森永先生はあたしたちをなんで集めたんですか? ……一応敵同士なのに」


 大笛は小首を傾げ、それから周りを見渡した。

 体勢からは分からないが、精神は常に臨戦状態ということだろう。


 森永は空気を思い切り吸い込み、今日の目的を声にした。


「同盟を組みます!!!」


 森永の大声で窓ガラスが振動で震え、棚に収められていたファイルの何冊かが床に落ちた。

 

「どーめい?」


 言われたことの意味を理解していないように曽根崎がおうむ返しをした。

 森永は額を手の平で押さえて細かく説明する。


「仲間になるということよ。けど、あくまで一時的に。共通の敵を倒すまでの間、私たちは一心同体。そして、晴れて邪魔者がいなくなったら……今度こそ私たちの中での勝負よ」

「なるほど……今は内輪揉めしている場合ではないみたいですからね」


 舞がいち早く反応した。

 次いで大笛が反応を見せる。


「賛成です! あの女はギッタンギッタンのケッチョンケッチョンにしたいですから!」

「曽根崎さんはどう?」


 森永は曽根崎の方を見る。

 曽根崎は「うーん、うーん」と唸った後、勢いよく手を挙げた。


「なんかよく分かんないけど、それでアラポンに近付けるならそれでいいや!」


 ――これで仲間を3人手に入れた。

 森永は心の中で下卑た笑みを浮かべた。


「それじゃあ決定ね、これより私たちは4人で一個として動くわ! そして私たちの名は……【インマーズ】!」


 ビシィッと指を差して言ったが、誰1人として要領を得ていなかった。

 曽根崎に至ってはスマホを弄り始めている。

 

 この小癪な子供たちめ。

 そう言いたい気持ちをグッと堪えて優しい笑みを浮かべた。


「それじゃあ、早速作戦を練るわよぉ」


 

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