第5話 帰宅までの長い道のり
「どーして進級早々こんな酷い目に遭わなきゃいけないんだよ」
俺はトボトボと1人で帰路についていた。
あの後、舞ちゃんには追加で殴られ、政宗からは侮蔑の視線を送られ、挙句全員分の飯代を奢ることになった。
いつも通り曽根崎の告白を躱して、白鳥先輩を追いかける一年になるはずだったのに……。
急に淫乱な女の子が増えやがった。本当に厄介なことだ。
「……あれ」
待て、なにか忘れていないか?
これで今日の俺の1日は終了か?
――違う。
俺は自宅の一軒家が見えてきた十字路でコンクリートブロック塀に身を寄せた。
そっと家の前に目を向ける。
そこには当然というか、やっぱりというか、
燈は家が隣の幼馴染で、幼稚園の頃から一緒に遊んでいた。
……思えば、あの頃からやたらとパンツを俺に見せてきていた気がする。
今日の服装は……超絶ミニスカにシャツインスタイルか。
俺の好みなんて遥か昔から知っているくせに、どうしてそこだけは頑なに変えようとしないのだろう。
もうなにもしなくてもTバックが見えてるじゃないか。
「くっそ、今日はどうやって家に入ろうか」
淫乱幼馴染を見ている場合ではない。
今日は色々あったけど、締めは必ず燈から流れて家の中に入る、というミッションがあるのだ。
あれが白鳥先輩なら大手を振って会いに行くというのに。
彼女は今頃家でテレビでも見ているだろう。
「……めちゃくちゃ上を警戒してるな」
ここ最近は
同じ手はもう使えそうにない。……高かったのに、鉤縄。
「待てよ?」
俺は一旦顔を引っ込めて左の道路を見た。
俺の家は裏側に庭がある。古典的な裏口から入るという戦法が今日から使えるだろう。
死してなお役に立つ鉤縄。忍者好きとしてはたまらないな。
「ではではコッソリ行きますか」
俺は音を立てないようにして道路を歩き裏口がある側のコンクリートブロック塀まで辿り着いた。
後はここを乗り越えればゴールは目の前だ。
「よっと」
俺はジャンプしてブロック塀に捕まりよじ登る。中々体力を使うけど、見つかったほうがさらに疲弊する。
転がるようにして着地した。
多少音が鳴ってしまったけど、草木に隠れて見えまい。ハッハッハ、今日も俺の勝利だ。
「おっかえりー、新!」
……ん?
なんか今聞こえてはならない女の子の声が聞こえた気がする。
幻聴かな?
「って無視するなー!」
強烈なアッパーが俺の顎を捉えた。
たまらずよろけてブロック塀に背をつける。
――ああ、やっぱり幻聴じゃなかったのか。
「お……前! 門の前に立ってたじゃねーか!」
「あーあれ? 人形」
「は?」
燈はこともなげに言った。
「高かったんだよー、特注であたしそっくりの人形作ってもらうの。けどおかげで化かし合いには勝ったね」
「……どちらかと言うなら馬鹿し合いだけどな」
俺はそう言って腕を組む。
あっさり捕まってしまったが、両手を上げるにはまだ早い。
というか、曽根崎にしろ森永先生にしろ、降参したらなにされるか分かったもんじゃない。
さーて、どうしたものか……。
「さー、今日こそあたしと付き合ってもらうわよ、新」
ニヤリと犬歯を見せて笑う燈。
こえーよ。
「……分かった。ここじゃなんだし、家で話をしよう」
「え? え? 家に入っていいの? 小学3年生の時の【素っ裸事件】の時から閉ざされていた家に?」
「閉ざされてんのはお前だけだけどな」
――そう、燈は人様の家で素っ裸になっている。しかも理由が見せびらかしたいからという淫乱極まりない理由で。
それ以来NGを出していたが……。
「えへ、えへへへへ、まさか入れる日がくるなんて夢みたい」
雑木林のような裏庭から正面玄関に出る。
後は鍵を開けて家の中に入るだけ。
「あれ、そういや、あの人形回収しなくていいのか?」
俺は道路に置き去りにされている燈(人形)を指差した。
「あ、たしかにあのままじゃ車に轢かれちゃうね」
「そうでなくても不気味だから早く片付けろ」
「うん!」
燈は満面の笑みで人形の元に向かう。
「ふっふっふ、今回は俺の勝ちだな」
ポケットから素早く鍵を取り出す。
チャランという金属音に燈が気付く。
だが、もう遅い。
鍵穴に鍵を差し込んでクルッと回し、俺の体しか通らないくらいの幅で扉を開ける。と同時に体を滑り込ませて一瞬の間もなく扉を閉め切った。
直後に扉にタックルする何者かの音が聞こえたが、いかに燈といえども扉を破ることはできない。
ふん、高価な人形を連れて帰るがいい。
俺は肩で風を切るようにして2階の自室に向かった。
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