第3話 初めての進路指導室
教室に戻った後のホームルームの内容は、まるで俺の脳に届いてこなかった。
くそ、あんなにあっけなく会話が終了するとは……何百回も繰り返したこととはいえきついものがあるな。
ぼんやりとしているうちにホームルームが終わった。
今日は授業はなく、午前中で帰ることができる。部活もないため周りのクラスメイトはそそくさと教室を出ていった。
なにも考えることができない今日の俺(まあ、毎日のことだけど)にとって授業がないのはありがたい話だ。
「よ、必殺フラレ
そんな俺の心中を察してか、深山が声をかけてきた。
「そんなに気を遣わなくても大丈夫だ。慣れっこだからさ」
「ちげーよ、面白がってるだけだ」
「……じゃあとっとと去れッ!」
こいつ、人の気持ちを理解した上で踏み躙ってきやがった!
「冗談だよ。先輩のことは残念だったな。また男磨いてアタックしようぜ」
キランと白い犬歯を見せて深山は笑った。
ま、落ち込んでいても仕方がない。次なる作戦を考えることのほうがよっぽど重要だな。
「てか、お前進路指導室行かなくていいのか?」
深山は思い出したかのように言った。
「なんで俺がそんなところに行かなきゃいけないんだよ」
「
深山は「まあ、いつものことか」と呟くように付け足す。
余計なお世話だ。
それに多少は覚えている。2年生になって新しく担任になった
特筆して気を惹かれるということはない。
「でもなんで俺が呼ばれるんだ?」
「知らねーよ。俺が聞きてーよ。てか、俺が行きてーよ! あんな先生と2人きりなんて、願ったり叶ったりじゃねーか!」
俺以外誰もいない教室で吠える深山。
ほんと、分けてやりたいくらいだ。こちとら傷心中だってのに。
「んじゃあ俺は行ってくるわ」
「おう、俺は先に帰ってるから、なんかいいことあったらすぐにラインで連絡しろよな」
俺は深山と別れると、1階にある進路指導室へ向かった。
◇
「失礼しまーす」
俺はノックをした後にスライド扉を開ける。部屋の中はさほど広くなく、中央に大きめの机が一つと、相対するように椅子が2つ置かれている。部屋の両脇の本棚には、進路の資料なのか分厚いファイルがみっちりと収められている。
あまり使われていないのか埃っぽい。
「あれ……誰もいない……?」
入った瞬間一望できる進路指導室に森永先生はいなかった。
途端、首筋にねっとりとした感触を覚えた。
「あひいっ!」
情けない声を出して振り向く。
後ろには俺を呼びつけた張本人、森永先生が舌をチロチロと見せつけながら立っていた。
「あぁん、もう、なんですぐ逃げるの?」
森永先生は心底ガッカリしたように肩を落とす。
多分相手が誰であれ背後から舐められたら逃げると思う。
「な、なにしてるんですか森永先生」
「なにって、ようやく新藤君を捕えることに成功したのよ? そしたらやることは一つじゃない」
森永先生は言い終えるや否や、ブラウスのボタンをプチプチと外し始めた。
紫色のブラジャーから溢れんばかりの乳房が顔を覗かせる。
「ちょっ……!」
待て待て待て!
急展開過ぎるだろ!
第一俺と森永先生は今日初めて顔を合わせたんだぞ!
「せ、先生いきなりなにを……!」
「なにって、新藤君を手に入れるための強硬手段よ」
強硬手段過ぎるだろ先生ッ!
つーかなんだってこんな淫乱ばかりに好かれちまうんだ俺は!
「先生、申し訳ないですけど俺には生涯を共にする女の子がいるんです。だから……」
「ふーん、そんな子がいるんだぁ。それってだぁれ?」
「う……!」
森永先生のトロリとした目が鷹のように鋭い目に変わった。
この人、大人なのに一番危ないじゃん。絶対に
「いや……あの……」
俺はどんどん後ろに下がろうとしたが、机のせいで退路を断たれている。加えて入ってきたスライド扉の前には森永先生がいるため出口を塞がれている。
万事休すかーー
が、出口のスライド扉が突如開け放たれた。
「……なにやってるんですか、あなたたち」
剣道着姿の生徒が竹刀を肩に担いで凍てつくような瞳で俺たちを見る。
この学校にいるなら知らない人間などいない。生徒会長の
そんな人間に俺たちは今睨まれている。
……俺はなにも悪くないのに。
「た、鷹井さん!? どうしてここに?」
「怪しい動きをしながら生徒指導室に入る先生を見たものですから。学校内での風紀の乱れは、この私が許しません」
淡々と事実を述べる鷹井先輩。
ていうか、森永先生はどんな動きをしてたんだ?
いや、そんなこと考えている場合じゃない。森永先生がアタフタと目を回している最中だ。このチャンス、逃すわけにはいかない。
「んじゃ、そういうことで」
俺は隙をついて駆け出した。
鷹井先輩の横を通り抜ける時、軽く会釈をしたが、まるで興味ないというように一瞥されて終わった。
彼女まで豹変したらどうしようかと思ったが、見た目通り淫乱ではないらしい。
俺はホッと胸を撫で下ろして下駄箱に向かっていった。
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