第2話 白鳥先輩
体育館にはすでに2年生と3年生がほとんど集まっていた。
年功序列という概念からか、体育館に2学年集められたときは3年生が前列、2年生が後列という並び方になっている。
「随分と遅い会場入りじゃねーの」
息も絶え絶えに列に交じると、後ろから声をかけられた。
振り向くと
「俺にも色々あったんだよ」
俺はぶっきらぼうに返答した。
「どーせまた曽根崎にコクられたんだろ? くっそー! いいなー! うらやましいぜちくしょー! なんでお前みたいなモブっぽい奴にそんないい体質が与えられんだよ!」
1年生を除く全校生徒が集まっているというのに、深山は大声で嘆きの声を上げる。
俺としては全く嬉しくないし、こんなイベントあげられるのならすぐにでもあげてやりたいくらいだ。
後、人をモブ扱いすんな。
「つか、お前がなんで彼女できないか不思議で仕方ないよ」
小学生の時からの腐れ縁だが、深山に彼女がいるという話は聞いたことがない。
今風のセンターパートに塩顔という誰が見てもイケメンで、尚且つ誰彼構わず仲良くなれる
「お前なぁ……ゲームやったことないのかよ」
「はあ? どういう意味だよ」
「俺みたいなキャラは、イケメンで明るく元気なムードメーカーだけど結局いいお友達ポジションで終わるの! 言わせんなよ!」
……それが分かってんならキャラ変しろよ。
つーか自分でイケメンって言うな。
「っと、俺はお前に構っている暇ないんだ」
俺は背伸びをして前方にいる三年生の集団に目を向ける。
ものの数秒で白鳥先輩(の後ろ姿)を見つけた。
「白鳥先輩、今日も美しいなあ。なに食べたらあんな美しい姿になるんだろうか」
「つむじしか見えてないのになに言ってんだよ」
「つむじですら美しいということをお前は知らないからそんなこと言えんだよ」
深山のくだらない突っ込みを一刀両断する。
ああ、白鳥先輩、あなたの姿を見るたびに、俺はであった頃の衝撃を思い出します。
◇
俺が白鳥響子先輩に惚れたのは、入学して間もない頃だった。
科学の授業のために移動していた俺は、廊下で白鳥先輩とすれ違った。
――瞬間、世界が明滅した。
白色の縦ニットに紫色のロングスカート。
そしてスレンダーながらも出るところは出ているパーフェクトボディ。
この世に女神がいるのであれば、それはまさしく先輩のことであろう。
そのまま視界が暗転し俺は尊死するかと思ったが、ただ単に卒倒していただけらしく、俺は保健室で目を覚ました。
あれから1年間、俺は白鳥先輩を追い続けている――
◇
「おい! 新藤!」
深山のバカでかい声が俺の三半規管を揺らし、俺は妄想から現実世界へ引き戻された。
「な、なんだよ。急に叫ぶなよ」
「急じゃねーよ、さっきから何回も叫んでんだよ。もう始業式終わってんぞ」
深山の言葉に周りを見渡すと、三年生も二年生もゾロゾロと体育館の出口に向かって歩いていた。立ち止まっているのは俺と深山ぐらいのものだ。
――当然、白鳥先輩も移動を開始している。
「ちょ、なんで早く言ってくれねーんだよ! 白鳥先輩いなくなっちまうだろ!」
「だからさっきから言ってるだろーが! ほら、とっとと先輩のところ行って来いよ」
トンと背中を押される。
なんだかんだ言っても、深山はいい奴なんだな。
……あ、いいお友達で終わるって、こういうことなのか。
そんなくだらないことを考えている内に、体育館の出口で白鳥先輩を発見した。
「しっらとっりせんぱーい!」
まるで一塁に飛び込む野球選手のように俺は白鳥先輩の前に滑り込んだ。
白鳥先輩と話していた女生徒が俺の滑り込みを見て悲鳴をあげながら去っていく。
ふん、俺は白鳥先輩以外どうでもいいのだ。モブの女生徒は去るがいい。
「いやあ、今日は燦燦と太陽きらめくいい日ですね!」
「……新藤君、空一面雲よ」
「なっ!」
俺は渡り廊下から空を見上げる。
朝は快晴だったというのに……!
ま、まあこんなのはよくあることだ。
それよりも、今日の白鳥先輩はまた美しい。
ノースリーブの黒色のニットに白色のロングスカート。薄手の生地だからか、胸が強調されていてエロい。
「新藤君、人のことを上から下まで舐め回すように見ないこと」
「は、はい!」
俺の視線は1秒も経たずにバレていた。
まずい、これではいつもと同じじゃないか。
今日こそは……2年生になった今日こそはビシッと決めなくてはいけない!
「し、白鳥先輩! 今日お時間ありま」
「ごめんね、今日は友達とご飯食べに行くの」
森林伐採よろしく、バッサリと切って捨てられた。
「か……はぁっ!」
俺は悶絶して膝を折った。
今日のデートプランは24個も練ってきたというのに、それが一瞬にして消えた。
手厳しいにも程がある。
「く、くくく、そ、それでこそ白鳥先輩だぜ」
負け惜しみを口にして顔を上げる。
気付けば白鳥先輩は長い黒髪を靡かせて去っていた。
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