第21話『僕から言いたいことはただ一つだ』

「初めは────単なる興味本位だったの。凛空りくくん以外の男の子ってどんな感じなんだろうって、彼女に対してどんな風に接するんだろうって、そんな興味本位」


 菜々美ななみは逃げる気力を失くし、真実と思われる話を始めた。

 その表情から、少しの後悔が見える。


さとるくんは、SNSに彼女との思い出を投稿してて、話していく内にこの町に住んでることが分かったから、会ってみることにしたの。ついでに、男の子が喜ぶ女の子の言動なんかを聞いて、もっと凛空くんに好かれれば、なんて思って……だけど、会うだけじゃ済まなかった。……会うべきじゃなかった」

「悟に一目惚れでもした?」

「違います……彼女さん、柏美かしわみさんには申し訳ないですけど、凛空くんに遠く及ばないので、一目惚れはないです。ただ────……」


 言い辛そうに言葉を詰まらせる。

 助け舟を出すわけでは無いが、僕は自分の推測を言ってみることにした。


「楽しくなったんだろ。誰かに見られるかもしれない、そんなスリルが楽しくて、それがエスカレートした結果、それが現状じゃないか?」

「……あはは、よく分かったね」


 最初から違和感があった。

 集合場所や目的地、2日しか見てないが、その2日とも人通りが多い場所を選んでいた。

 更には恋歌れんか先輩が録音していたファミレスでの会話に────。


『やっぱり、ファミレスって人が多くて、知り合いが来ないかと思うとドキドキしますね』

『彼氏さんが居るかもしれないよ』

『それはより一層、興奮しますね』

 

────決定打と言っても、過言では無かった。

 この時、海東かいとうがこちらの席に来なかったのは、柏美さんにバレるのを避けたかったからだ。

 あの時も、本当は海東は菜々美に関係を切りたいと申し出るつもりだったと、柏美さんから聞いてる。

 ただ、今の話だと────。


「菜々美さん、その、ホテルの件もその延長線上の行為ですか?」


 綾芽が聞く。

 僕もその点は気になった。

 菜々美が先程ホテル内の録音の再生を断ったのはその行為に及んだから、だけど、室内なんて誰の目にも入るはずが無い空間。

 それなら、その行為に及ぶ必要なんて無いはずだ。


「延長線上、では無いね。それなら、ホテルに入る所で終わってる。あれは────……準備と練習」

「準備と練習?」

「お互い初めて同士なのは危ないって、気持ちよくなれないって聞いたからさ。痛がって、凛空くんに気を遣わせるのも嫌だったから、だから準備したの。それと、凛空くんを満たす為の練習」

「私の彼氏を練習台にしたわけだ。……2ショットや、トークの履歴を消すこと────悟を解放することを条件に」

「はい」

「だけど、その行為を撮影して、新たな脅しの道具にした。より強力になった脅し道具に、悟は従うしか無かった……悟に聞いた通りだわ」


 柏美さんは納得したように頷く。


「事の詳細は分かった。柏美さんは録音を聞いているから、菜々美が真実を話してるってことで間違いないだろうし……僕から言いたいことはただ一つだ」

「……うん」

「菜々美、別れよう」

「……。……」

 

 少しの沈黙が流れた後、菜々美は静かに、ゆっくりと、頷いた。

 

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