第19話『捏造よ!私を悪者にする為の!』

 綾芽の説明を聞いて安堵する菜々美だが、隣に立つ恋歌先輩に気付いて怯え始めた。

 何故、こんなことをしたのか。

 それは、僕が菜々美に最後のチャンスを与えたかったから。

 別れるって思考を変えることは菜々美がどんなことをしても出来ないけど、でも、友達にならこれからも────そう思っていたんだけど、無意味な事だったみたいだ。

 その事を綾芽が菜々美に説明すると、彼女は理解が出来ていない様子だった。


「別れる?友達?……私、被害者なのに?」


 あくまで自分は被害者として話を進める菜々美。

 そんな時に生徒会室の扉が開き、新たな来訪者が姿を現す。


柏美かしわみ京子きょうこ登場ってね」


 先日、ファミレスの件の後に声を掛けた女性、それがこの柏美さん。

 彼女は秋なことを利用して、恋歌先輩の夏服を借り、廊下で待っていた。予定では僕が呼んでから入ってくる筈だったんだけど、我慢できなかったみたいだ。


「……誰?」

さとるの彼女って言えば理解出来るよね?」

「悟くんの彼女……どうして、ここに」

「悟くん、ねえ」

「ッ!」


 蛇が獲物を睨む目、なんて例えは失礼かもしれないが、それぐらい、陽気な態度とは裏腹に鋭い目つきに怯む菜々美。

 彼女の前で失言は許されない。そんな圧を感じてしまう。


「い、いつもそう呼んでるから────じゃなくて、呼ばされてるから!」

「ふうん……まぁいいけど。それで、私がここに居る理由だっけ?簡単な話、あんたの彼氏、凛空くんから招待されたの」

「凛空くんが……?どうして、この人と?」

「偶然会っただけ、で、頼み事をしただけ」

「頼み事?」

「これだよ」


 そう言って見せて来たのは、某SNSでの、海東かいとう悟と、菜々美の会話履歴。


『いつも優しくしてくださるので、信頼して、直接会って相談したいことがあるんです。お会い出来ませんか?』

『大事な相談なら、俺じゃなくて彼氏さんの方が良くない?誤解されるのは避けたいし』

『ダメなんです。それほど大事な相談では無いので、あって、少しの間お話して頂ければ、それで』


「これは悟のスマホから発見されたやりとりね。あれ?話違うくない?」


 衝撃。

 戸惑い。

 焦り。

 菜々美の表情から読み取れるのはそんなところか。


「捏造よ!私を悪者にする為の!」

「それは菜々美さんの方でしょ」

「違う、ほんとうに!」

「なあ────」


 僕は菜々美の前に歩いて行き、そして腰を落として視線を合わせる。 


「────スマホのトーク履歴を見せてくれ」

「な、なんで……」

「決まってるだろ。僕は、その海東ってやつの捏造を証明したい。だから、その為には菜々美の無実を証明したいんだ」

「凛空、くん……」


 もちろん嘘で、菜々美の良心を刺激する為だけの言葉だ。

 

「だから、見せてくれ」

「いや、私縛られてて────」

「綾芽、菜々美のポケットからスマホ出してやってくれ。悪いな、一応無実を証明できるまで外せないんだ」


 綾芽が菜々美のポケットからスマホを見つけ出し、僕に渡す。

 この携帯にはパスワードがされているが、知っている僕は容易に開ける。


「ちょっ」

「あった?お兄ちゃん」

「ああ、あった」


 柏美さんが見せて来たトーク履歴と同じものがそこにはあった。

 

「どういうこと?」

「だ、だから、捏造されたんだって勝手に私のスマホから送られたの!」

「パスワードは?」

「無理やり開かされたの!だから残って────」

「意味は?」

「え?」

「そんなことする意味だよ」

「私を陥れる為に決まってるでしょ。脅し材料ってわけ」

「随分慎重なやつなんだな、その海東ってやつは」

「そ、そうみたいね」

「そんなことないけどなー」


 海東のことをよく知る柏美さんが言った。

 嘘は、通用しない。


「悟が慎重なら、絶対そんな捏造しない。だって、名前も言わず、証拠も残さなければそれでお終い。脅し材料なんて、菜々美さんの方に残らないものを選ぶはず。バレたくないんだもん。どっちが悪いとか、そういうのは関係なくて、私って彼女がいるんだから、悟はバレないようにするはず」

 

 僕はそれを聞いて、写真フォルダを開く。

 すると、海東と一緒に映る菜々美の写真を発見する。

 本来なら、こんな写真は撮らないだろう。 


「仮に菜々美さんの浮気が凛空くんにバレても、悟の正体を菜々美さんが黙っていれば、自分に非は来ない。そもそも、偽名を使うでしょうね」

「……」

「菜々美、言ってなかったけど僕は────菜々美と海東がホテルに入る所を見てる」

「……え」

「その時の菜々美は、とても、楽しそうで、とても作りものの表情には見えなかった」

「それは、さと────あいつの機嫌を取る為に、仕方なく」

「仕方なく、なら、二人の位置関係が納得できない。菜々美は、海東の横か、後ろを歩くはず。だけど、あの時の菜々美はあいつの手を引き、そして、ラブホへと誘った。……その時のあいつの方が、困ったような顔してた」


 僕は、スマホで撮影していたあの日の動画を再生して、菜々美に見せた。

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