第17話『あなたで間違いないですね?』
「どうしたんですか?急に落ち着きが無くなりましたけど」
「い、いえ!……やっぱり、会長さんが何を言ってるのか、全然分からなくて、人違いだと思います!!────あっ、私、凛空くん待たせてるんで!」
菜々美が席を立ち、扉を開けようとする────が、扉はビクともしない。
鍵を確認するが当然、最後にこの部屋に入ったのは自分。鍵なんてしてあるはずが無い。
「菜々美さん、まだ話は終わってません」
いつの間にかすぐ後ろに居た恋歌に耳元で声を掛けられ、肩を跳ねさせる菜々美。
気が付けば、身体が縄で縛られ、椅子にまで縛られ、身動きが取れなくなる。
「さて、お話の続きをしましょう」
まるで自然───縄で縛られている生徒など目の前に居ないという様子で話を再開する恋歌に、若干の恐れを感じる菜々美。
しかしこうなっては逃げることは不可能。
「さて、もう気付いたとは思いますが、あの日、菜々美さんと同じファミレスに居たのは偶然ではありません」
「偶然じゃ……ない」
「ずっと、尾行していたんですよ……あなたの自宅からね」
「────っ!!」
「なので、まぁこの写真の日は、確かにあなたかどうかの証拠はありませんが、こちらの写真は紛れもなくあなたです」
自宅から出て来て、駅に向かうまでの道のりの写真、これは言い逃れが出来ない。
「そ、それは姉────」
「混乱しているんですか?それとも焦っているのでしょうか?あなたに姉は居ません。そう、凛空くんにも言ってましたね」
「────じゃなくて、お母さんだと思いますよ」
「お母さんは若くないと、姉と間違えるようなことは無いとも言ってましたね。なら当然、あなたと間違えることもないでしょう」
これは凛空から聞いた話ではなく、恋歌自身が、菜々美の口から聞いた話。
凛空を尾行しながら聞こえて来た話だ。
綾芽が近くに居ない方が、油断して、何か情報を洩らすかもしれない。そう思った綾芽はあの日、菜々美の浮気現場を凛空が見た次の日の朝、二人を置いて、先を歩いていた────意識を前方に向ける為に。
背後の、普段よりも近くを歩く恋歌の存在に気付かせない為に。
「……従姉妹が────」
「はぁ……菜々美さんのご両親に確認した方が早そうですね。綾芽さんに確認しに行ってもらいましょうか」
「やめて!!」
本気の拒絶。
それで、確信する。
確定する。
「この写真、写っているのは菜々美さん、あなたで間違いないですね?」
菜々美は唇を噛みしめ、これ以上反抗しても意味が無いと悟り、首を縦に振る。
「どうして、こんなことを?」
内心、菜々美をこのまま窓から放り投げるか、男子トイレに裸で放置したい気持ちだが、それを抑えて、冷静に、先輩として話を聞く。
「脅されているんです……」
「はあ……先程の録音、聞かせたと思うんですけど?」
「……っ……ごめんなさい」
それから口を開かなくなった菜々美に同じ質問をするが、返事は無い。
仕方ない、と、ガムテープ片手に菜々美に近づく。
「騒がれると面倒ですからね。今度は誤魔化せませんし。ああ、安心してください。暴力で解決なんて、事後処理が面倒な事敢えてする必要はないので」
「い、いやだ……誰か、誰か!!」
首を振り、ガムテープで口を塞がせまいと首を動かす。
しかし、恋歌は菜々美の髪を掴み、制止させる。
「暴力で解決することをお望みならば、仕方なく、そうしますが────その場合、暫く醜い顔を晒すことになりますが、よろしいですか?」
完全なる脅し。
普段のほんわかした生徒会長、紅葉恋歌からは想像もできない冷たい目を向けられ、背筋が凍り、首の動きが止まる菜々美。
その隙にガムテープで口を塞ぎ、深呼吸をする恋歌。
少し頬が赤くなって、動きもどこかぎこちなくなる。
そのまま扉まで歩き、内側からノックを三回、妙なリズムで叩くと、先程菜々美が開けようとしても開かなかった扉がすんなりと開いた。
そしてそこには、凛空が立っていた。
「こ、後輩くん、例の……アレを」
「はあ……分かりました」
「んんー、んー!」
凛空が来たことに気付いた菜々美は、言葉にならない声で助けを求める。
自分を助けてくれると、本気で思っているのだ。
「菜々美、今回の件、菜々美に反省をさせるにはどうしたらいいか……考えたんだけど、これが一番だった」
そう言って、菜々美を目を、布で塞ぐ。
しかしそれは、完全に視界を奪えず、透けて、顔は分からなくとも、目の前の二人の身体の輪郭くらいは分かる。
だから────
二人が抱き合ったのも、すぐに分かった。
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