第16話『覚え、ありますよね?』

「まず、お忙しい中、菜々美さんの許可を取らず、綾芽さんに勝手に連絡先を聞き、突然こんなところにお呼びし、申し訳ございません」

「いえ、大丈夫です」


 恋歌は頭を下げ、謝る。

 たとえ相手がしたことが到底許されない事でも、自分がした事もとても褒められたことではない。世間一般的に、そこまで律儀に謝ることでなくとも、生徒会長を務めている彼女にとっては気が済まないのだ。


「それよりも早く用件をお願いします。部活は休みですけど、凛空くんのこと待たせてるので」


 部活が休み、これも、菜々美が恋歌の呼び出しに素直に応じた理由の一つ。 

 当然、恋歌と裏で繋がっている凛空はそのことを菜々美から聞いて把握していたので、今日という日を選んだのだ。


「まずはこれを────」


 恋歌は一枚の写真を取り出す。


「以前、駅周辺を歩いていた時の事です。あなたが凛空くん以外の男性と腕を組み、更には貴方の年齢で入ることを許されないホテルにです」

「人違いです」

「ですが────」

「なら先生に言えばいいじゃないですか。言えないのは、証拠がないからですよね!」


 菜々美は事前に用意していた言い訳をする。

 ファミレスで恋歌が見たと言った時から、写真で脅される可能性は考えていたので、焦ることなく対処することが出来た。

 菜々美からすれば、完璧な言い訳。


「ちゃんと、声を掛けて確認したんですか?証拠もないのに私を疑って、凛空くんに余計な事言って、それで別れることになったらどう責任を取るんですか!?」


 自分の優位を確証した菜々美は、攻め立てる口調でそう言った。

 

「菜々美さんは、凛空くんと別れる気は無いと……別れたくないと」

「当たり前でしょ!」

「凛空くんのことを大好きだと、愛していると」

「ええ、そうよ。っていうか、凛空くんのこと、馴れ馴れしく呼ばないでくれる!?凄く嫌なんだけど!」


 菜々美は知っていた、こういう時、焦ったり、弱いところを見せたら負けだと。

 そこを攻められ、自分がボロを出すまで攻められ続けると。

 だから強気でいる、逃げない、それが菜々美のこの場での戦闘スタイル。

 しかし、無意味。


「愛しているという割に、他の男と関係を持っている……これはどういうことなんでしょう」

「だから!」

「一昨日の土曜日」

「──っ!!」


 一昨日の土曜日、つまり、あのファミレスの日。

 その日の話題を出され、菜々美は一瞬言葉を失う。 

 それを恋歌は見逃さない。


「何か思い当たることでも?」

「い、いいえ……」

「本当に?」

「本当です!」


 菜々美はあくまで他人の空似で話を突き通す為、認めるわけにはいかなかった。

 しかし、菜々美は知らなかった。

 あの日、ファミレスに凛空を含む三人が居たのは偶然では無いことを。

 菜々美は知らなかった。

 三人の尾行が、彼女の自宅から始まっていたことを。

 菜々美は知らなかった。

 その一部始終を、撮影されていたことを。


『やっぱり、ファミレスって人が多くて、知り合いが来ないかと思うとドキドキしますね』

『彼氏さんが居るかもしれないよ』

『それはより一層、興奮しますね』


「この会話に、覚え、ありますよね?」

「そ、それは……!」


 菜々美は知らなかった。

 

 恋歌は、凛空のことをストーカーするぐらい愛していることを。

 

 だからこそ、今回の件、菜々美に対して本気で怒っていることを……。

 

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