第15話『放課後、生徒会室に来てください』

 もし、僕が浮気をしていて、その相手とデートをするとなった時、確実に人通りが多い場所を避ける。正確には、同じ学校に通う生徒や先生、家族にだって見られたくないわけだから、人通りの多い場所は避けなければならない。

 だけど、菜々美は、人通りが多いだけではなく、僕の家からそう遠くないというか最寄り駅であるこの駅周辺に知っているだけで二回も訪れている。

 僕や綾芽、友達にだって見つかりそうなこの場所で、堂々と僕以外の男子と会い、仲良くし、ホテルに入って行く。

 現に、僕だけでなく恋歌先輩に見つかっていたわけだから危険な橋を渡っていたことは証明されている。

 なぜ、そんなことをしたのか、それが最初の疑問だった。

 そしてその時に浮上した回答が────スリルを楽しんでいる、だった。


「すみません」


 ベンチに座っていた、変装している所為で悪目立ちしている女性に声を掛ける。


「はい!?」


 まさか声を掛けられると思っていなかったのか驚いた様子。


「あの、なんでしょう……ナンパなら間に合ってるんで」

「異性に声を掛けられた理由の候補で、一番最初にナンパが出るなんて────あ、いや、なんでもないです。そんなことより、お聞きしたいことがありまして」


 僕がある写真を聞きながら問うと、彼女はすぐにその意図を理解し、首を縦に振った。


          *


 月曜日、放課後、生徒会室にて。

 この学校の生徒会長、紅葉あかば恋歌れんかは、ある生徒の入室を待っていた。

 一昨日、あのファミレスの中での会話で、彼女が菜々美の浮気現場を見た────という情報を、綾芽が流した理由……それは嫌がらせや浮気をしている菜々美の彼氏である凛空へ浮気をしていることを認めさせる為、だけだはなかった。

 恋歌から、菜々美へこんなメッセージが届いていた。


『凛空くんの事でお話があります。放課後、生徒会室に来てください』


 普段、恋歌は恥じらいと緊張から、凛空のことを『後輩くん』と呼ぶが、菜々美の気持ちを揺さぶる為に名前で呼び、更には先述した目撃者からの呼び出し。それだけで、菜々美はこの呼び出しに応じる理由には十分だった。

 もちろん連絡先を綾芽から教えてもらったことと、それ故に綾芽がこの件に絡んでいることも容易に菜々美にも予想が出来た。

 隠し通すのは難しいと悟った菜々美は、どうにかして凛空と別れない結末を迎えられないかと思考を巡らせ、気が付けば放課後。

 菜々美は生徒会室の扉を叩き、部屋に入った。

 そこには、意外にも、生徒会長である恋歌が椅子に座っているだけで、他には誰も居なかった。

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