第14話『さて、違和感の正体が掴めたらいいんだけどな』
食事を終え、綾芽がデザートでも頼んで更に引き延ばそうとするかと思っていたが杞憂だったようで、すんなりと席を立った。
トイレを我慢させるという話はさすがに冗談だったようで、安心する。
もし万が一の事があれば、店にも他の客にも迷惑を掛けることになるから、これでいい。
「お兄ちゃん、なんだか変な顔してるね。菜々美さんの浮気がほぼ確定してってのもあるけど、悩んでる感じ。私的には、店を出た瞬間大泣きすると思ってたよ」
「いや、正直辛いけど、まだ冷静じゃないって言うか、多分寝る前に泣くことになるんだけど……ちょっと気になって」
「気になる?」
「なあ、菜々美たちの席って、何も会話が聞こえなくなったんだよな?」
「うん、私たちが居ることに気付いて、その瞬間静かになったよ」
「恋歌先輩が一人の時は?」
「ふ、普通に会話してましたよ。ファミレスに入って行く時も楽しそうにしてたので、不仲、という事ではないと思いますが……」
「そうですか」
なら、間違いなくあの二人は、僕たちの存在に気付いて、まして、後ろの席だという事に気付いて、口を閉ざした。
そう、二人とも……。
「もし、男の方が、本気で菜々美を好きなら、絶好のチャンスだったと思うんだ。あの場で席を立って、僕に話に来れば、僕と菜々美は別れ、男は堂々と菜々美と付き合うことが出来る。もし行為が無くて遊びだとしても、だったら、菜々美を守る為に協力するとは考え辛いかなって」
「あの男が何も接触せずに、嫌になって帰らずにっていうのが気になったの?」
「ああ。遊びで付き合ってるなら、男があんな状況に付き合う事は無いって、そう思って」
「菜々美さんの事が好きで、単にお兄ちゃんに会う勇気が無かっただけじゃない?それに、菜々美さんはお兄ちゃんの事が好きで余計な事をしたら嫌われちゃうだろうし」
「まあ、そうだよな。考えすぎだな」
「つ、辛いことがあったんですから、目を背けたくもなりますよ」
例え男にどういう意図があっても、結局、菜々美が浮気をしていたらそれは関係の無いこと。
僕には、関係の無いことだ。
「……この後、どうする?尾行を続けるか?」
「どうしよっか。私たちが近くに居るんだから、警戒してすぐ解散すると思うし、収穫無さそうだけど尾行続ける?」
「いや、綾芽の言う通りだと思う。恋歌先輩、今日はありがとうございました」
「い、いえ、私は何もしてませんから」
菜々美の尾行を、見失わず、バレずに完遂してくれたんだ。
嫌な顔せず、文句も言わず、大切な休日を使って、面識もない、友達の兄というだけの僕の為に。
感謝しないなんて、出来るはずが無い。
「今度、お礼をさせてください」
「そ、そんな!本当に私は!」
「いいじゃん、恋歌先輩!緊張するなら私も付き合うし、っていうか、私も頑張ったんだから私にもお礼をする義務があると思うし」
「そうだな。必ず、二人にお礼をするよ」
「おう、楽しみにしてるぞよ」
妙な口調になった綾芽はスルーして、解散を促すと、二人とも不思議そうな顔をする。
でも、すぐに何かを察したように、「また学校で」「また後で」と、言って、駅を離れて行った。
一人になりたかった。
それを察してくれたんだ。
「ありがとう、本当に」
誰にも聞こえないくらいの声量でそう呟き、ファミレスの入り口に視線を移す。
僕が近くに居ることは知られてる。
だから、いつも以上に周囲を警戒するはず……。
「さて、違和感の正体が掴めたらいいんだけどな」
ベンチに座り、スマホを弄りながら、ふとファミレスの入り口を見る────それを繰り返す。
その間に、僕の座るベンチと、ファミレスの間にある、もう一つのベンチ。そこに、帽子をかぶり、サングラスを掛け、マスクを着け、僕と同じく、スマホの画面とファミレスを交互に見る人が視界に入った。
まさかとは思っていたが、そう思っていたからずっと脳の片隅に置いていた候補が、それがこの違和感を、綾芽と恋歌先輩に話した以外の違和感をも解決してくれる。
僕は、腰を上げた。
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