第10話『ただ、菜々美を信じてる、それだけだ』

『あ、菜々美さんがベンチに座りました。駅前にあるベンチです』

「やっぱり、駅か。それにしても、前回もそうだったけど、よく、お兄ちゃんっていう彼氏がいるのに、そんな大胆な場所を集合場所にするなぁ……。駅前なんて、お兄ちゃんや私だけじゃなくて、学校の知り合いだって通る可能性高いでしょ」


 浮気をしているのに、やけに堂々としている、その事が気になるらしい。

 分かってはいた事だけど、もう、綾芽も、おそらく紅葉先輩も、菜々美が浮気している前提で話を進めてるな。


『浮気する人の一部に、相手にバレるかバレないか、バレているかバレていないか、そういうスリルを味わって、楽しみたいって人が居ると聞きます。もしかしたら菜々美さんも……』

「この間、お兄ちゃんが、菜々美さんに似た人を見たって話をした時に、菜々美さんが本当に慌ててたから、どうでしょうね……でも、可能性は無くはないかもね」

『あ、ごめんなさい後輩くん!まだ、浮気だと決まったわけでもないのに……』

「大丈夫ですから、菜々美から目を離さないでくださいね」


 結局、菜々美の下へ誰かが来れば、それで答えが出るんだ。

 今は、好きな様に言ってもらっても構わない。


「恋歌先輩、私たちも駅に着いたよ。あ、でも、そのまま監視は続けてて」

『分かりました!』


 充電節約ってことで、一旦電話を切る。


「一時集合かな、なら、もうすぐかな。……覚悟は出来てる?」

「覚悟なんか要らないだろ」

「……信じたいだけでしょ、辛い現実から目を逸らしたいだけで。なら、覚悟しておいた方が良いよ」

「そういうのじゃない、ただ、菜々美を信じてる、それだけだ」

「そう……菜々美さんの事、殴りたくなってきたよ」


 そう呟いて、綾芽が指を指す。

 指の示す方に、顔に見覚えがある男が居た。


「あいつは、あの時の」


 その男は、ベンチまで迷いなく歩いて行くと、菜々美に声を掛けた。

 すると、菜々美は嬉しそうに立ち上がり、そして、男の腕に抱き着く。

 

「……」

「声、掛けてきたら?あ、安心して、撮影の方は、恋歌先輩がしてくれてるはずだから」

「……声なんか、掛けられる訳ないだろ」

「そう」


 二人は、そのまま歩いて、ファミレスへと入って行った。

 何か、何か、まだ可能性が……浮気じゃないって、そんな可能性があるはずだ……あっ!


「従兄弟って可能性もあるよな、それか────」

「はぁ……」


 綾芽が溜息を吐いて、ボクの言葉を遮る。


「お兄ちゃん、来て」


 そう言って腕を引かれる。

 そして、そのまま、菜々美たちが入って行ったファミレスに入る。 


「先に友達が入ってるので」


 と、店員さんに伝え、席に向かう。

 その席には、紅葉先輩。


「おまたせ、恋歌先輩!」

「ううん、私も今着いたところだから」


 どうやら、紅葉先輩が先に入っていたみたいで、しかも、その背の、ソファの後ろ側には、菜々美が座っていた。

 

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